研究課題
大動脈瘤は、破裂により突然死に至る重要な心臓血管外科疾患である。近年実用化されたステントグラフト治療は、低侵襲治療として有用であり普及しつつあるが、残存する大動脈瘤が遠隔期に再発し破裂する危険性がある。特に、分枝動脈から瘤内への逆行性血流によるⅡ型エンドリークが20-30%程度発生し、ステントグラフト後の患者予後を大きく左右している。Ⅱ型エンドリークはデバイス自体の改良では解決困難な問題であるため、ステントグラフト治療後の予後を格段に向上させる何らかのアジュバント療法(補助療法)の開発が望まれる。大動脈瘤の主病態は慢性炎症による組織破壊であるが、炎症が持続し遷延する原因や機序の詳細は不明である。炎症部の冷却により炎症所見が改善するという経験的知見から、瘤壁の温度センサーを有する炎症細胞でも温度応答により炎症を持続・増幅していると考え、発熱応答を抑制することで大動脈瘤の進展を制御できるのではないかと着想した。本研究の目的は、大動脈瘤壁細胞(マクロファージと血管平滑筋細胞)における温度センサー分子TRPM2を介した温度応答機構を解明することと、細胞内温度応答系の制御により炎症病態と瘤拡大を阻止し得ることを実証することである。そのため、令和4年度に、計画Ⅰ「瘤壁細胞(マクロファージ、平滑筋細胞)の温度応答機構の解明」を実施した。具体的には、培養ラット大動脈由来血管平滑筋細胞並びにヒト単球由来細胞株THP-1を用い、環境温を33.0℃、35.0℃、37.0℃、39.0℃、41.0℃の各条件に変化させ、24時間後または48時間後の動脈瘤関連炎症性シグナル分子を解析した。その結果、高環境温下で炎症性シグナル分子JNK活性が低下傾向を示す可能性が示唆された。
3: やや遅れている
上述の結果(高環境温下の培養細胞でJNK活性が低下傾向)の再現性がまだ十分には確認できていない。
今後は、やや遅れている高環境温下における培養細胞を炎症シグナル応答の解析を優先的に行う。あわせて、令和5年度の当初予定である培養細胞における温度センサー分子TRPM2の阻害実験を実施する計画である。
令和4年度に研究予定であった「瘤壁細胞(マクロファージ、平滑筋細胞)の温度応答機構の解明」の進捗がやや遅れており、行えなかった研究の細胞培養や解析に用いる物品等の差額が生じた。遅れている研究は令和5年度に合わせて行う計画である。
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