肺切除後の気管支断端における積層線維芽細胞シートの移植による血流増加作用および気管支断端部の補強効果を大型動物で調べるため、イヌの気管支断端モデルを用いて検討を行った。 まず、イヌの口腔粘膜から単離した線維芽細胞を6-well plateに2.5×105 cells/ml播種し、2週間培養することで、シート化(厚さ50~60μ、直径1.5cm)することに成功した。HE染色で6~8層の細胞積層を、Azan染色で細胞間コラーゲンを確認した。構成細胞の殆どがVimentin陽性であったが、αSMA陽性細胞を少数認め、線維芽細胞の一部における筋線維芽細胞へ分化が示唆された。同細胞シートの培養液中にはVEGF、MCP-1、TGF-βが高濃度であり、細胞シートは高い微小血管新生、組織修復、細胞増殖効果を有している可能性が示唆された。 次に、全身麻酔下に左開胸でイヌ左肺後葉切除モデルを作製した。後葉気管支は自動縫合器で切離し、移植群(N=2)では断端に積層線維芽細胞シートを貼付し、自家移植した。非移植群(N=2)では細胞シートを移植しなかった。全ての犬肺切除モデルは標本摘出まで生存し、再開胸時に気管支断端瘻は認めなかった。細胞シートの移植による有害事象はなかった。1週後に安楽死させ、細胞シート移植の有無による気管支断端の変化の違いを検討した。肉眼的には、非移植群では断端自体を視認できたが、移植群では軟部組織で覆われていた。Azan染色では、移植群で断端壁外に膠原線維の増生を伴う新生組織を認めた。CD31、VEGFにて免疫染色を行ったところ、移植群では断端壁外の新生組織にCD31陽性の微小血管が多くみられ、VEGF発現の亢進を認めた。 これらのことより、肺切除後の気管支断端に貼付された積層線維芽細胞シートは、局所における血管新生や組織新生を促し、気管支断端を補強する可能性がある。
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