研究課題/領域番号 |
22K16585
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
項 慧慧 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), 臨床研究所がん分子病態学部, 特任研究員 (80869793)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 肺がん / キヌレニナーゼ |
研究実績の概要 |
トリプトファンの代謝産物であるキヌレニンが腫瘍形成に関与することが注目されており、腫瘍微小環境におけるキヌレニンの蓄積量の減少が抗腫瘍免疫の活性化に関連することが報告されている。キヌレニナーゼは、トリプトファン代謝経路の重要な酵素であり、キヌレニンをアントラニル酸に、3-ヒドロキシキヌレニンを3-ヒドロキシアントラニル酸に代謝する役割を担っている。この酵素がキヌレニンの代謝に直接関与することから、その機能や制御が肺がんの進行にどのように影響するを解明することは重要である。 本研究の目的は、肺がんにおけるキヌレニナーゼの活性化と腫瘍の形成及び悪化進展の関係を明らかにすることである。今年度は、昨年度までに得られた外科切除肺がん検体の解析データ、臨床データ解析に、肺がん培養細胞を用いた実験、免疫不全マウスモデルでの実験を加え、キヌレニナーゼの発現が肺がん進行において果たす役割について仮説を構築した。 RNA干渉法を用いて培養ヒト肺腺がん細胞でキヌレニナーゼのmRNAをノックダウンして実施した二次元細胞培養実験で、キヌレニナーゼの発現ががん細胞自身の増殖、遊走能、浸潤能に与える影響を検討した。その結果、キヌレニナーゼの発現がこれらのがん細胞の特性に重要な役割を果たしていることが示唆された。 さらに、生体内での解析を行うために、CRISPR-Cas9システムを用いて恒常的にキヌレニナーゼの遺伝子をノックアウト(破壊)したヒト肺腺がん細胞株を作製し、これを免疫不全マウスの皮下に移植する動物実験モデルを構築した。この動物実験モデルを用いて、ヒト肺がん細胞株でのキヌレニナーゼ遺伝子のノックアウトが腫瘍の形成や進行にどのような影響を与えるかを検証する予備的な実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、昨年の研究に基づき、研究を進めた。主に二次元細胞培養の実験系での検証実験を行い、概ね計画通りに進行した。一方、マウス動物実験モデルを用いたキヌレニナーゼ遺伝子ノックダウンによる腫瘍制御効果の検証に関しては、実験系の立ち上げに時間がかかり、予備実験を終了するに留まり、遅延が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)作製が完了した、キヌレニナーゼ遺伝子をノックアウトしたヒト肺がん(腺がん)細胞株が、T細胞の免疫不全マウスであるヌードマウスへの皮下移植で生着し腫瘍形成することを予備実験で確認できた。今後は、統計学的解析が可能なn数で動物実験を行い、キヌレニナーゼの腫瘍形成及び転移への関与の検証を進める。 (2)ヌードマウスで作製した異種移植腫瘍のRNA sequencingによる網羅的遺伝子発現解析、病理組織形態学的な解析、メタボローム解析などの詳細な統合オミクスデータ解析を行い、キヌレニナーゼの肺がんにおける役割の明確を進める。 (3)臨床データ解析の深化することで、キヌレニナーゼの発現量と肺がん患者の予後との関連性を解析し、キヌレニナーゼを標的とした新しい治療法開発の可能性を検討する。 (4)得られた研究成果を学会や論文で公表し、成果を社会に還元すると共に、外部からのフィードバックを収集して今後の研究の質を向上、方向性の修正を諮る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由: 作製したキヌレニナーゼ遺伝子ノックアウト細胞株の安定性と再現性を確認するための評価、動物実験の本実験開始前の実験手法の確認や条件設定するための予備実験に予想以上の時間を要した。 次年度使用計画: 動物実験の準備も完了したので、前年度の研究費も含め、当初の研究計画を次年度内に完遂するために使用する。
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