研究課題/領域番号 |
22K16596
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
梶原 一絵 日本大学, 医学部, 助手 (30908942)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膵癌マウス / 心理社会的ストレス / 嗅覚障害 / デュロキセチン |
研究実績の概要 |
近年,がんに対する治療方針の多様化から,患者に適したサポーティブケアが求められている。対象としてはがん性疼痛やがん悪液質,うつや睡眠障害,味覚・嗅覚障害など多岐に渡るが,われわれは適応外の抗うつ薬が担がんマウスに対して抗腫瘍効果のみならず,疼痛緩和や悪液質の軽減,食欲低下・体重減少の遅延,生存期間の延長に寄与することを報告してきた。一方,嗅覚障害や心理社会的ストレス(なかでも孤独)はがん治療の中断を余儀なくされる場合も多く深刻な問題であるが,がん患者における嗅覚障害の病態解明や治療法の開発,孤独が及ぼす影響に関する詳細な解析は進んでいない。 当該年度においては,まず膵癌モデルにおける嗅覚異常メカニズムを明らかにするため,嗅上皮から嗅球,大脳の組織学的な解析を行った。その結果,①嗅球腹側の神経僧坊細胞において有意な変性細胞が生じること,②デュロキセチン投与によって変性細胞数が有意に低下することを見出した。興味深いことに嗅球腹側の神経細胞は学習による匂い(食欲)に関係していることが知られ,腹側神経細胞の変性が匂いを介した食欲低下に関わっている可能性が示唆された。次に,膵癌マウスに対して埋没テストによる嗅覚の機能的解析を行ったところ,嗅球変性神経細胞数が多いコントロール群においては,餌を見つけるまでの時間が短く,デュロキセチン投与群では餌を見つけるまでの時間が非投与群よりも長くなることが明らかとなった。このことは,デュロキセチンによる神経細胞変性数の減少が嗅覚過敏の緩和に関与した可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
嗅覚障害の病態解明に関しては,嗅球腹側の神経僧坊細胞における変性が関係している可能性を明らかにしたが,その変性細胞がどのようなメカニズムで生じるのかを今後明らかにする必要がある。また,予定していたHPLCによるアミン解析が終了していない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては,以下の実験計画を引き続き行う予定である。 ①嗅球のアミン解析の結果,膵癌マウス(非投与群)では健常マウスと比較してドーパミン濃度が低下し,膵癌マウスへのデュロキセチン投与群でドーパミン濃度の低下が抑制される可能性が出てきた。もう少し頭数を増やして解析を行うとともに,嗅球のドーパミン濃度低下と神経細胞変性の因果関係を証明するためにin vitroの実験系を構築する。 ②心理社会的ストレス(単頭飼育)と多頭飼育群における組織学的解析(腫瘍の浸潤・転移,腹膜播種の程度,末梢神経浸潤・脈管侵襲の程度や炎症細胞の局所浸潤の程度など)を引き続き検討する。また,両群における血中ストレスホルモンと脳内アミンの動態も引き続き比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
安定したHPLCの結果が得られず,カラムを変更するなどのトラブルシューティングが必要であったが,受託解析を依頼することでその解析の見通しがついた。本年度に予定していたアミン解析が出来なかったために,次年度にその分の予算を使用することとした。
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