研究実績の概要 |
全静脈麻酔による全身麻酔により悪性高熱症を発症した患者からTRPV1(Q261P)の遺伝子変異が見つかったことに注目し、悪性高熱症の発症機序にこのTRPV1の遺伝子変異がもたらす受容体の機能異常が関与しているという仮説を立てて研究をスタートした。2022年度は、TRPV1の遺伝子変異のノックインマウス(C57BL/6J, TRPV1-Q261P)を作成した。2023年度はノックインマウス(Hetero型)に対してまず、揮発性吸入麻酔薬への曝露により悪性高熱症を発症するかどうかを検証したが、いずれの濃度のセボフルラン、デスフルラン、イソフルランにも特異的な反応を示さず、悪性高熱症の特徴である心拍数の上昇や体温の上昇は見られなかった。Homo型のノックインマウスでの実験を計画しており、作成中である。さらに、TRPV1-Q261Pの培養骨格筋から得られたMyotubeの実験においても、カフェインやクレゾールに対する反応の更新はみられなかった。また、Myotubeにおいて、Capsaicinによる刺激により細胞内カルシウムの上昇は見られず、本刺激薬への反応性が欠如していると考えられた。 以上の結果から、TRPV1-Q261Pの遺伝子変異は揮発性吸入麻酔薬と誘因として生じる悪性高熱症のメカニズムには関与していないと考えられた。一方で、TRPV1-Q261Pの変異はMyotubeにおいてCapsaicinへの反応性が完全に欠如することが分かった。外気温への反応性の欠如により全静脈麻酔中に悪性高熱症を発症した可能性も考慮し、ノックインマウスを用いて全身麻酔中に環境温を上昇させる実験を追加で行ったが、変異を持っていないマウスと比較して体温上昇に差は見られなかった。
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