研究実績の概要 |
神経幹細胞は、ヒトを含めた哺乳類の海馬領域に生涯にわたって存在し、持続的にニューロンを産生することで、海馬依存的な認知機能の維持に貢献している。これまでに、幼若期の麻酔薬ミダゾラム(MDZ)への曝露により、神経幹細胞の長期的な休止状態を誘導し、海馬ニューロン新生を抑制することで、成体期以降の認知機能の低下を引き起こすことを明らかにした。また、次世代シークエンスを用いた網羅的遺伝子発現解析により、MDZ曝露による神経幹細胞の長期的な休止には、Notch2,RESTなど静止状態関連遺伝子の発現が関与することが分かったが、その遺伝子発現制御メカニズムは不明であった。そこで、本研究では、遺伝子発現制御機構の一つとして知られているクロマチン構造、特にクロマチンの開閉状態を全ゲノムで網羅的に解析した。 【方法】海馬神経幹細胞特異的に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するNestin-EGFPマウスを使用し、生後7日目(P7)にMDZを1日1回、計3日間腹腔内に連続投与した。 【結果】対照(Ctrl)マウスと比較して、MDZ曝露マウス(MDZマウス)ではP10に9,648個の新規オープン領域が同定され、8wにおいても4168領域(43%)が持続的にオープンであり、クロマチンのアクセス性が増加していた。また、静止状態関連遺伝子近傍のオープン領域を比較したところ、8wのMDZマウスではCtrlに比べてアクセス性が増加しており、遺伝子発現量の増加と一致する結果になった。 【考察】幼若期のMDZ曝露は神経幹細胞におけるクロマチン構造変化を介して、静止誘導関連遺伝子の発現に関与する可能性が示唆された。また、MDZ誘導性の認知機能障害が自発的運動により改善することを見出しており、この回復にクロマチン構造変化が関与しているかを現在解析中である。
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