本研究の目的は、「炎症・ストレス刺激により誘導されるグルコース受容体を発現する細胞(Glu-細胞)は、高グルコース環境下での活性化を介して上皮バリア機能の破綻を誘導し急性呼吸促迫症候群(ARDS)を惹起するかを明らかとする」ことである。 本年度は、以下の①~⑤について検討を行った。 ①培養上皮細胞(MDCK)を高グルコース処理した結果、細胞間接着構造であるタイトジャンクションのマーカーであるZO-1の細胞間接着部位への局在が失われた。 ②高グルコース処理は、細胞間接着構造の形成や維持に関わる極性制御因子であるaPKCの活性化が誘導されることが分かった。また、高グルコース処理時にグルコースアナログである2-D-グルコースを添加したところ、aPKCの活性化が抑制されることが明らかとなった。 ③LPSによるARDSモデルマウス肺を採取しグルコース受容体構成分子であるTas1r2、Tas1r3の発現変化を検討した結果、それら分子を発現する細胞の増加を確認した。 ④ARDSモデルマウス肺では、TGF-α、IL-1β、陽性細胞が確認された。 ⑤高脂肪食摂取マウスでは、肺、肝臓においてTas1r2、Tas1r3陽性細胞が確認された。 これらの解析結果から、ARDSによる障害組織において、Glu-細胞の増加が観察され障害への関与が予想された。高グルコース環境下では、肺胞上皮細胞を含む種々の細胞において上皮細胞間接着構造の異常を誘導する事が示唆された。
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