研究課題/領域番号 |
22K16620
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
楠 宗矩 関西医科大学, 医学部, 助教 (10714917)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 静脈麻酔薬 / デクスメデトミジン / インスリン分泌 / パッチクランプ |
研究実績の概要 |
現在まで静脈麻酔薬がグルコース刺激インスリン分泌(GSIS)に与える影響についての研究を、細胞生物学・電気生理学的手法を用いて継続している。デクスメデトミジン(DEX)に関しても予備実験を行い、DEXがGSISを抑制すること、細胞障害や酸素消費量や代謝に影響をきたさず、インスリン分泌を促進する薬剤との併用においても、その促進効果を相殺しインスリン分泌を抑制することを示してきた。 令和4年度では、膵β細胞のin vitroモデルとしてMIN6細胞株を用いて、パッチクランプ(Glamicidin-perforated法、whole cell法)によりインスリン分泌に関与するイオンチャネルを、EPC 800 patch-clamp amplifier (HEKA Elektronik)を使用して電気生理学的に検討した。対照実験としてATP感受性Kチャネル阻害薬(Glibenclamide)、電位依存性Kチャネル阻害薬(Stromatoxin-1)、電位依存性Caチャネル阻害薬(Nifedipine)を使用して電位・電流の変化を観察し、DEXがそれぞれのイオンチャネルに影響を与えないという結果を得た。これらの結果はインスリン分泌抑制の分子機構を明らかにするものであり、DEXが鎮静効果を示す作用機序とは異なる分子機序で、インスリン小胞の輸送や開口分泌に影響を与える可能性を示すものである。 適切な血糖コントロールは周術期や救急医療における重要課題の1つであり、グルコースの代謝バランスやインスリン分泌制御の解明は医学上の大きな課題である。DEXがインスリン分泌を抑制することは過去の研究で報告され、いくつかの経路への影響を報告しているが詳細な分子機序の解明は不十分である。本研究で得られた知見はその機序の一部を明らかにするものであり、臨床使用における患者への影響を考える上で非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリン分泌に関与するイオンチャネルを電気生理学的に評価すること、インスリン小胞の開口分泌に関与する蛋白質の動態を評価し、蛍光顕微鏡によるイメージングでインスリン分泌をリアルタイムに観察することにより、デクスメデトミジン(DEX)がインスリン小胞の輸送・開口分泌に及ぼす影響を解析することを目的としている。 現在までに、膵β細胞のin vitroモデルとしてMIN6細胞株を用いて、パッチクランプ(Glamicidin-perforated法、whole cell法)によりDEXがインスリン分泌に与える影響を電気生理学的に評価してきた。EPC 800 patch-clamp amplifier (HEKA Elektronik)を使用してデータ解析を行い、ATP感受性Kチャネル、電位依存性Kチャネル、電位依存性CaチャネルにはDEXが影響を与えないという結果を得た。これらの結果は、インスリンの主要な分泌経路であるATP感受性Kチャネルとは異なる経路、もしくはインスリン小胞の輸送や開口分泌に直接影響を与えることにより、DEXがインスリン分泌を抑制する可能性を示している。これまでに明らかにしてきた、DEXがグルコース刺激インスリン分泌を抑制すること、細胞障害や酸素消費量や代謝に影響をきたさず、インスリン分泌を促進する薬剤との併用においても、その促進効果を相殺しインスリン分泌を抑制するという結果と併せて、すでに論文発表を準備している。 今後はMIN6細胞株のDEXへの薬剤暴露がインスリン小胞の開口分泌に関与する蛋白質のリン酸化に変化をもたらすかをWestern blot法で検出し定量的に評価する。さらにイメージング技術により、DEXが小胞輸送に及ぼす影響をリアルタイムで観察し評価する予定であり、それぞれの実験系を実行するための施設、資材の準備も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
デクスメデトミジン(DEX)がインスリンの主要な分泌経路であるATP感受性Kチャネルとは異なる経路、もしくはインスリン小胞の輸送や開口分泌に直接影響を与えることにより、インスリン分泌を抑制する可能性を示してきた。令和5年度はDEXがグルコース刺激インスリン分泌に与える影響やその作用機序について、現時点で解明している内容について論文発表を行う予定である。 また、当初の計画通りMIN6細胞株のDEXへの薬剤暴露がVAMP2、SNAP25、Syntaxinといったインスリン小胞の開口分泌に関与する蛋白質のリン酸化に変化をもたらすかを評価することにより、インスリン分泌抑制における分子機構の更なる解明を目指している。それぞれの特異抗体を準備し、Western blot法で検出し定量的に評価する予定である。さらに研究の進捗状況に合わせて、分泌小胞内部のpHが膜融合の過程で連続的に変化することに基づき、pH感受性蛍光タンパク質pHluorinを利用したイメージング技術を用いて、DEXが小胞輸送に及ぼす影響をリアルタイムで観察し解析する。ともに高濃度グルコース応答性インスリン分泌と薬剤暴露による変化を観察し、新たな知見の獲得を目指す。 集中治療医学会や麻酔科学会、さらには国際学会における発表も計画し、さらなる知見を獲得した上で、麻酔もしくは薬理学領域での論文発表を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度では、デクスメデトミジン(DEX)がインスリン分泌に与える影響を、膵β細胞のin vitroモデルとしてMIN6細胞株を用いて、パッチクランプ(Glamicidin-perforated法、whole cell法)により電気生理学的に評価した。EPC 800 patch-clamp amplifier (HEKA Elektronik)を使用してデータ解析を行い、ATP感受性Kチャネル、電位依存性Kチャネル、電位依存性CaチャネルにはDEXが影響を与えないという結果を得た。主に電気生理学的実験、データ解析と論文作成に経費を使用した。 令和5年度は、インスリン小胞の開口分泌に関与する蛋白質の動態を評価し、蛍光顕微鏡によるイメージングでインスリン分泌をリアルタイムに観察することにより、DEXがインスリン小胞の輸送・開口分泌に及ぼす影響を解析することを目標としている。それぞれの実験系を実行するための施設、資材の準備も進めており、経費の使用を計画している。 当初の使用計画としては変わらず、経費使用に関して総計の変更予定はない。
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