腸管虚血は頻度の高い腹部救急疾患であり、病態の持続によって腸管バリアの破綻によるバクテリアルトランスロケーションから敗血症などに進展することが示唆されており、また、腸管壊死に至れば外科的切除が必要となる重症度も高い疾患である。一方で、虚血の原因解除以外に確立した治療法はなく、腸管虚血から腸管壊死への進行を抑制する治療法は存在しない。 そこで我々は、腸管虚血モデルラットを用いて、前年度までに示された水素ガスによる小腸幹細胞に対する保護作用の機序を解明することを試みた。腸管虚血モデルラットを虚血のみ、虚血再灌流、水素ガス吸入下の三つの状態に分類し、組織の8-OHdG免疫染色、LGR5のRNA抽出を行った。結果、水素ガス吸入下ではLGR5のRNA量が虚血のみと同等であり、再灌流によって生じる幹細胞障害を軽減させることを示唆する所見をえた。組織の8-OHdG免疫染色では、同様に水素ガス吸入かでのROSによる障害の軽減を認め、幹細胞保護作用はROSの障害を軽減させることに起因している可能性が示唆された。
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