研究課題
難治性てんかんは、抗てんかん薬の内服では発作が制御不能で、社会生活を営む上で著しい障害となる。てんかん外科では難治性てんかんの発生領域(焦点)の切除を施行するが、焦点切除が無効な例があり、近年はてんかんの病因を焦点のみではなくネットワーク障害として捉える重要性が提唱されている。本研究は複数のトレーサーを用いたPET(陽電子放出断層撮影)により、非侵襲的に脳の神経伝達物質受容体の変化を検出することで、てんかん脳のネットワーク障害を解明し、新たな診断法や治療薬の開発へ繋げることを目標とする。2022年度は、18F-FDG PET、11C-FMZ PET、11C-MPDX PET、15O-gas PETについての研究に取り組んだ。18F-FDG PETと11C-FMZ PETについては、焦点診断の手段の一つとして確立されているが、その診断精度向上のためにSPM解析を用いた成果を過去に学会で発表してきており、当該年度は論文の執筆を開始した。18F-FDG PETのもう一つの検討として、定位的頭蓋内脳波(SEEG)による電気生理学的検査の結果で示されたてんかん焦点と、18F-FDG PETにおける糖代謝低下部位の関係を検討することを試みている。当該年度は、18F-FDG PETとSEEG留置時のCT画像を重ね合わせ、電極留置部位にROIを設けることで、糖代謝低下と電気生理学的な焦点との関係を調べるために、データを収集して整理した。11C-MPDX PETは、てんかん患者の焦点以外の部位でアデノシンA1受容体結合能が上昇する傾向を示す症例について、臨床像と照らし合わせて、11C-MPDX PETが示す異常の意義を検証した。抗てんかん薬の多剤内服症例に結合能上昇がみられる傾向がみられた。15O-gas PETは、もやもや病の貧困還流について評価し、脳卒中発症率との関係を検討した。
3: やや遅れている
データの整理、収集に見込んでいたよりも時間がかかったため、学会発表、論文執筆に取り掛かったものの、予定よりは遅れている。
焦点診断の精度向上に関するFDG PET, FMZ PETについては、データの収集・整理が進み、論文の執筆に取り掛かっているため、2023年度に投稿することを目標とする。てんかんのネットワーク障害解明に関与すると考えられるMPDX PETのデータについては収集・整理がほぼ終了したため、2023年度に執筆に取り掛かることを目標とする。FDG PETとSEEGとの関係については、引き続きデータを整理して結果を出すことを目標とする。また、2022年度に解析にとりかかれなかったITMM PETについては、データを整理する。
当該年度は、データの収集・整理に時間を要し、見込んでいた学会発表・論文投稿に至らなかったため、旅費や論文校正費が無く、次年度使用額が生じた。次年度には、論文投稿や学会発表が可能となることが見込まれ、学会参加・旅費や論文投稿のための費用として使用を計画している。
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