研究実績の概要 |
急性期虚血性脳卒中では、再灌流後の活性酸素種(ROS)の過剰産生と蓄積が神経障害につながるため、これを防ぐことが重要である。脳虚血再灌流障害においては細胞内の遊離鉄に依存し、ROSの蓄積を伴う新型のネクローシス様細胞死「フェロトーシス」が大きく関与していると推定される。そこで「脳虚血再灌流障害におけるフェロトーシスの関わりや機序を解明し、フェロトーシスの抑制による新たな治療法を確立すること」を目的として本研究を計画した。フェロトーシスは虚血性神経細胞死、再灌流障害の基盤と推定されるが、脳虚血再灌流障害におけるフェロトーシスの機序は明らかにされていない。また生体内での治療モデルにおいてフェロトーシスを抑制する薬剤の投与方法は確立しておらず、有効性も解明されていない。我々は酸化ストレス細胞死の一種のフェロトーシスを解析する過程で、ラジカル捕捉剤の2,2,6,6-Tetramethylpiperidine-1-oxyl(通称TEMPO)に着目した。in vitro実験を進め、安定なラジカル化合物として知られるTEMPOが容易に揮発することを見出し、TEMPOは気化することによって離れた場所にある細胞に作用し、フェロトーシスおよび酸化ストレス性神経細胞死を止めることを示した。続いてマウス虚血モデルでも気化したTEMPOを自然吸入したマウスは、脳の虚血で誘導される神経細胞死が顕著に抑制されることを示した。
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