膠芽腫は、本邦の原発性脳腫瘍の11%を占め、最も急速に進行し、予後不良な脳腫瘍の一つである。外科的切除、放射線治療およびテモゾロミド(TMZ)による化学療法が標準治療であるが、未だ膠芽腫患者の予後は不良であり、5年生存率は10%未満とされている。標準治療の中心を担うアルキル化剤であるTMZに関しても、MGMTをはじめとする腫瘍のDNA修復酵素による薬剤耐性が問題となっており、MGMT陽性膠芽腫に対し有効性の高い新規薬物療法の開発が急務である。 グルタミン酸シグナル伝達経路は、膠芽腫の増殖・進展に大きく関わっていることが多くの報告で示されている。当研究室では、過去に代謝型グルタミン酸受容体の阻害剤であるリルゾールがMGMTの転写抑制を介してMGMT陽性膠芽腫におけるTMZの抗腫瘍効果を増強することを確認している。しかしながら、膠芽腫のTMZ耐性におけるNMDA型グルタミン酸受容体の役割は未だ不明であり、本研究ではNMDA型グルタミン酸受容体を介したグルタミン酸シグナル伝達経路とTMZ耐性の関連性を評価した。 MGMT陽性のヒト膠芽腫細胞株であるT98G細胞において、NMDA型グルタミン酸シグナル伝達経路がMGMTの転写に与える影響について検討した。結果、N-メチル-D-アスパラギン酸によるNMDA型グルタミン酸受容体の活性化により、T98G細胞のMGMTタンパクの発現が上昇し、これはshRNAによるMGMTのノックダウンにより抑制された。NMDA型グルタミン酸受容体の阻害作用を有するメマンチン(MEM)を投与すると、T98G細胞におけるMGMT発現が抑制され、TMZによる細胞傷害作用が増強されることが判明した。 現在はGL261マウス膠芽腫細胞株(MGMT陽性)とC57BL/6マウスを使用した同種同所性マウス膠芽腫モデルを使用し、TMZとMEMの併用効果を検討しているが、in vivoでの十分な効果は確認できていない。投与経路および投与量を調整しつつ検討を継続している。
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