研究課題/領域番号 |
22K16761
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
雨宮 正樹 東京医科歯科大学, 東京医科歯科大学病院, 特任助教 (00848442)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 変形性関節症 / DMOAD / CNP / 膝蓋下脂肪体 / 線維化 |
研究実績の概要 |
変形性関節症(OA)の最大の愁訴は慢性的な膝疼痛である。当教室では、モノヨード酢酸(MIA)の関節内注射により惹起したラット膝関節炎症モデルを用いて、関節炎症の消退期に生じる膝蓋下脂肪体(IFP)の線維化が、膝遷延痛の発症に深く関与することを報告した。さらに、IFPの線維化が生じる前にC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)を予防的に関節内投与することで、IFPの線維化に伴う遷延痛の発症並びに関節軟骨の退行変性を抑制できることを示した。これらの結果は、CNPがDMOADs(Disease Modifying OA Drugs)、すなわちOAの症状と病態を同時に改善する薬剤として創薬開発できる可能性を示している。これらの結果を踏まえて、本研究では以下の項目の検討を行っている。 変形性関節症の治療の現場では、膝遷延痛並びに関節軟骨の退行変性に対して、薬剤を予防的に使用することには限度がある。そこで、本研究期間内では、CNPの治療的投与の効果の検証を行うことを第一の目的とした。モノヨード酢酸(MIA)の膝関節内注射によるラット膝関節炎症モデルにおいて、IFPの線維化が観察される8日以降にCNPを関節内注射した時の疼痛改善効果並びに関節軟骨の退行変性の重症度を検討したところ、線維化がある程度進行した場合においてもCNPの関節内注射は疼痛抑制効果を示すことが明らかとなった。一方で、組織学的解析の結果、治療的にCNPを用いた場合、関節軟骨の退行変性の抑制効果は観察されなかった。 次にCNPの薬理効果の分子機序の解析を行う目的で、ラット膝滑膜由来間葉系幹細胞に対してCNPを作用させた場合の網羅的発現変動遺伝子の解析(total RNA sequencing解析)を行ったところ、IL6-STAT3シグナル経路に関わる標的遺伝子の発現をCNPが抑制することを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画に記載したin vivo並びにin vitro双方の検討項目に対して、一定の成果を得たことから、研究計画は、概ね順調に進展していると考えている。次年度も継続して解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
膝遷延痛並びに関節軟骨の退行変性に対するCNPの治療的投与の効果検証:より詳細な組織学的解析を継続して行う。具体的には、ラット膝関節に1.0mgのMIAを注射後、IFPの線維化が顕著に観察されるDay8よりCNPを6回投与して、継時的に関節軟骨の組織学的評価を行う。特にIFP領域に着目し、CNPが線維化した組織を元の脂肪組織に戻す薬理効果があるか検証を行う。 外科的OAモデルに対するCNPの薬理効果の検討:これまでのデータは、すべてラットMIA関節炎モデルを用いて行った実験より得られた知見である。MIA関節炎モデルは、膝疼痛の研究に広く用いられているモデル系であるが、急速にIFPの線維化が生じるため、ヒトの関節症の病態を反映しているモデルとは言い難い。そこで、ヒト外傷性OAの病態に比較的近いとされている内側半月板不安定化モデル(DMM)及び前十字靭帯切離モデル(ACL-T)を用いて、病態の進行とともにIFPの線維化が観察されるか、IFPの線維化の進行に従ってラットの疼痛回避行動が観察されるか、CNPの関節内注射によりこれらモデルにおいてもIFPの線維化抑制と疼痛の緩和、関節軟骨の退行変性抑制が観察されるか、の検証を行う。 CNPの薬理効果の分子機序の解析:CNPは、血管平滑筋細胞において線維化を抑制する効果が報告されているが、IFPの線維化抑制効果は私たちが初めて明らかとした知見である。その分子機序を明らかとする目的で、遺伝子発現解析を継続して行う。細胞レベルでの検討として、ラット滑膜由来間葉系幹細胞に対してCNPを作用させた場合の標的遺伝子の発現制御を、total RNA Sequencing解析により行う
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験のための設置ケージ数の上限のため、当初予定していたラット数より少ない頭数での予備的検討から始めた影響で、動物実験にかかる費用が減額された。新年度に入り実験環境(ケージ数の上限の制約)がなくなった為、現在、追加実験を行っている。繰越金は追加実験にかかる費用として、適正に支出予定である。
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