変形性関節症(OA)の最大の愁訴は慢性的な膝疼痛である。当教室では、モノヨード酢酸(MIA)の関節内注射により惹起したラット膝関節炎症モデルを用いて、関節炎症の消退期に生じる膝蓋下脂肪体(IFP)の線維化が、膝遷延痛の発症に深く関与することを報告した。さらに、IFPの線維化が生じる前にC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)を予防的に関節内投与することで、IFPの線維化に伴う遷延痛の発症並びに関節軟骨の退行変性を抑制できることを示した。これらの結果を踏まえて、本研究では以下の検討を行っている。 変形性関節症の治療の現場では、膝遷延痛並びに関節軟骨の退行変性に対して、薬剤を予防的に使用することには限度がある。そこで、本研究期間内では、CNPの治療的投与の効果の検証を行うことを第一の目的とした。モノヨード酢酸(MIA)の膝関節内注射によるラット膝関節炎症モデルにおいて、IFPの線維化が観察される8日以降にCNPを関節内注射した時の疼痛改善効果並びに関節軟骨の退行変性の重症度を検討したところ、線維化がある程度進行した場合においてもCNPの関節内注射は疼痛抑制効果を示すことが明らかとなった。一方で、組織学的解析の結果、治療的にCNPを用いた場合、関節軟骨の退行変性の抑制効果は観察されなかった。 次にCNPの薬理効果の分子機序の解析を行う目的で、ラット膝滑膜由来間葉系幹細胞に対してCNPを作用させた場合の網羅的発現変動遺伝子の解析(total RNA sequencing解析)を行ったところ、IL6-STAT3シグナル経路に関わる標的遺伝子の発現をCNPが抑制することを明らかとした。さらに、CNPはIL6によるSTAT3のTyr残基ではなくSer残基のリン酸化を誘導することを明らかとした。
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