研究実績の概要 |
これまでSMARCB1/INI1遺伝子欠失進行性類上皮肉腫症例に対するEZH2阻害剤Tazemetostatの有効性が示されているが、その具体的な抗腫瘍効果の機序やその他の肉腫に対する効果はまだ不明な点が多い。類上皮肉腫はINI1遺伝子の欠失が特徴的とされるが、INI欠失とEZH2の発現やEZH2阻害剤による抗腫瘍効果の関連を調べるために、まず我々はヒト類上皮肉腫細胞株VA-ES-BJにINI1遺伝子を強制発現させたINI1安定発現株VA-INI1を作製した。そのコントロールとしてGFP発現株VA-GFPも同時に作製した。VA-INI1ではVA-GFPに比してin vitroでの細胞増殖能、Sphere形成能が低下し、in vivoでの造腫瘍能が消失した。INI1発現株ではGFP発現株に比してEZH2のみならずc-Myc, E2F, AURKA, PLK1, CDC25C, Cyclin B1といった細胞の増殖や生存等に関わるタンパクの発現が低下し、p21, p27といったsenescence markerの発現が上昇した。VA-ES-BJにおけるINI1欠失によるEZH2発現上昇が示唆され、VA-ES-BJでは正常ヒト線維芽細胞株NHDFに比してEZH2の発現が亢進していた。しかし、VA-ES-BJと当科で樹立したヒト類上皮肉腫細胞株Asra-EPSの2株に対してEZH2阻害剤であるTazemetostatを投与し、WST-8 cell proliferation assayにて細胞増殖抑制効果を検討したが、いずれもIC50が10μM以上とその効果は乏しく、NHDFと同様であった。 また、滑膜肉腫や淡明細胞肉腫にはそれぞれ疾患特異的な融合遺伝子SS18-SSX, EWS-ATF1が存在するが、融合遺伝子の発現とEZH2の発現やEZH2阻害剤による抗腫瘍効果の関連を調べるためにそれら融合遺伝子に対するsiRNAを設計した。各々の融合遺伝子のsilencingによりヒト滑膜肉腫細胞株、淡明細胞肉腫細胞株において細胞増殖能が低下することを確認している。
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