研究課題
不妊治療における体外受精の分野では、胚発生途中の分割停止もしくは割球が断片化して胚盤胞に発生しない胚質不良は長年の問題である。近年、体外受精における胚質不良の男性側因子として精子DNA断片化 (sperm DNA fragmentation, SDF) の重要性が報告された (J Hum Reprod Sci 2019)。以前よりSDFの原因として生活習慣による影響が指摘されている一方で、精子調整過程の密度勾配遠心処理とその後の凍結保存がSDFの直接的な要因と注目されており、SDFを予防することは胚質不良を改善する上で極めて重要な課題である。SDFは一般的にカスパーゼ活性化、アポトーシス、活性酸素種、酸化ストレスによって惹起されるが、凍結傷害によるSDFは活性酸素種と酸化ストレスが重要である (Hum Reprod 2009)。近年、精子凍結によるSDFは抗酸化化合物の添加によって全精子の30%程度にまで改善されることが報告されたが (Andologia 2019)、体外授精成績とSDF率の関連性を解析した報告ではSDF率は16%以下が望ましいとされ、さらなる改善法の開発が求められている。本研究では耐凍剤として使用予定であった化合物Aに、抗酸化化合物として使用予定であった化合物を添加した際に化合物が溶解しない問題が発生したため、耐凍剤をカルボキシル化ポリリジンに変更し検討を開始した。精子DNA不断片化率を指標に、各保存液で凍結し、融解した精子の断片化率が最も低下したのは抗酸化化合物レスベラトロールであることが判明した。
1: 当初の計画以上に進展している
変更した耐凍剤である化合物Bの添加により、有意にSDF率が低下することが確認された。加えて、抗酸化化合物のレスベラトロールの添加により、更に有意にSDF率が低下することが確認された。精子DNA不断片化率が低下した作用機序の解析のため、酸化ストレス マーカーや、ミトコンドリアのROS、脂質膜の過酸化、ミトコンドリアの膜電位を解析したところ、ミトコンドリアの膜電位以外が有意に低下していた。これらの成果については、論文として報告した。
開発したヒト精子凍結保存液が、SDF率を有意に低減することが確認されたため、臨床での応用が可能か確認する。具体的には、臨床の生殖補助医療において、既存の凍結試薬と開発した凍結試薬で凍結保存した精子を融解し、体外受精で使用することで胚へ影響を与えるかを確認する。
本研究については、当初予定していた解析サンプル数が半分で済んだため、購入する予定の試薬が少なくなった。次年度は、臨床検体を使用した体外受精成績への影響について、新たに研究計画を立て実施する。その際の倫理審査やインフラの整備に使用する。
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