RAS の過剰なシグナル亢進は腫瘍形成、細胞死の抑制、浸潤および転移などに寄与し、その変異や発現上昇がさまざまな癌で報告されており、最も有名な癌遺伝子として知られている。しかしながら、RASを標的にした阻害剤の臨床応用はなされておらず、臨床応用されている分子標的薬の多くはRASに関連する遺伝子を標的にしたものである。申請者のグループは、以前、RAS 阻害剤である Salirasibでは膀胱癌細胞株の抑制に高容量が必要であることを示し、更にSalirasibが投与された膀胱癌細胞株を用いたプロテオーム解析でRAS の下流遺伝子が十分に抑制されていないことを報告した。そこで本研究の目的として、薬剤感受性並びに耐性膀胱癌における新規RAS阻害剤によるRASを標的とした治療の可能性の探索と、それらに関わる癌シグナル経路を解明し、新たな治療戦略の基礎データを提示することとした。 今年度の成果として、以前、我々の教室では2種類の膀胱癌細胞株(BOYとT24)を用いて、ゲムシタビン耐性あるいはシスプラチン耐性細胞を樹立したが、耐性細胞を用いてゲムシタビン、シスプラチンに対するIC50の測定やRNAseq解析を行ったが、ゲムシタビンおよびシスプラチン耐性膀胱癌において、交差耐性は見られなかった。そこで、新規RAS阻害剤を用いて機能解析を行ったが、これらの耐性細胞株に対して抗腫瘍効果を示した。更にpan-RAS阻害剤を投与した細胞を用いてRNAseq解析を行い、多くの遺伝子が劇的に抑制され、特に細胞周期や細胞分裂に関与するパスウェイが阻害剤により制御されることを確認した。
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