RAS の過剰なシグナル亢進は腫瘍形成、細胞死の抑制、浸潤および転移などに寄与し、その変異や発現上昇がさまざまな癌で報告されており、最も有名な癌遺伝子として知られている。しかしながら、RASを標的にした阻害剤の臨床応用はなされておらず、臨床応用されている分子標的薬の多くはRASに関連する遺伝子を標的にしたものである。申請者のグループは、以前、RAS 阻害剤である Salirasibでは膀胱癌細胞株の抑制に高容量が必要であることを示し、更にSalirasibが投与された膀胱癌細胞株を用いたプロテオーム解析でRAS の下流遺伝子が十分に抑制されていないことを報告した。そこで本研究の目的として、薬剤感受性並びに耐性膀胱癌における新規RAS阻害剤によるRASを標的とした治療の可能性の探索と、それらに関わる癌シグナル経路を解明し、新たな治療戦略の基礎データを提示することとした。 進行膀胱癌の一次治療としては、ゲムシタビンとシスプラチンの併用化学療法が推奨されているが、薬剤耐性の問題がある。新たに開発されたRAS阻害剤である化合物3144は、ゲムシタビン耐性およびゲムシタビン並びにシスプラチン耐性の膀胱癌に対して抗腫瘍効果を示した。化合物3144の投与により、いくつかの遺伝子およびパスウェイ、特に細胞周期に関連するものがダウンレギュレートされ、細胞生存率が阻害された。これらの結果は、膀胱癌治療の新たな戦略を示唆した。
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