当研究室で樹立した卵巣奇形腫悪性転化の細胞株を用いて、CRISPR-Cas9ノックアウトスクリーニングを実施した。スクリーニングの選択圧としてシスプラチン添加を行った。ネガティブスクリーニングの結果、25個の遺伝子が見出された。創薬可能性の観点から絞り込みを行い、10個の遺伝子が新規治療標的遺伝子として同定された。10個の遺伝子について、細胞株を用いたノックダウン実験を行い、さらに4種類の遺伝子へと選別を行った。その内で遺伝子Aの阻害化合物を細胞株に添加することで、細胞増殖が抑制されることを確認した。また、卵巣奇形腫悪性転化の患者腫瘍由来マウスモデルの腫瘍を多数のヌードマウスに分割移植して疑似患者集団を作成し、同化合物を腹腔内投与したところ、コントロール群に比して投与群で有意な腫瘍増殖抑制効果が認められた。このことから、本研究で見出しされた治療標的遺伝子と、その阻害による新規治療開発というコンセプトの臨床応用性が実証される結果が得られた。前述の阻害化合物を添加した細胞株と患者腫瘍由来モデルへの投薬実験で得られた腫瘍について網羅的解析を行っており、遺伝子Aの阻害が奇形腫悪性転化において治療効果を発揮するメカニズムを今後も検証を行う予定である。 また、残りの3遺伝子についても阻害化合物を探索しており、同様のアッセイを行うことで奇形腫悪性転化に対する特異的な治療戦略を今後複数提案できる可能性がある。
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