研究課題/領域番号 |
22K16853
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河田 啓 東京大学, 医学部附属病院, 届出研究員 (90897290)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 子宮頸癌の起源細胞 / 混合癌 / 幹細胞 / HPV18型 |
研究実績の概要 |
2022年度は混合癌に注目した検討を行った。 子宮頸癌のうち扁平上皮癌は腟側の扁平上皮領域より、腺癌は子宮頸管内の円柱上皮領域より、それぞれ発生すると考えられている。一方、上皮内病変であるCINとAISが合併することは珍しくない。HPV感染が扁平上皮領域と円柱上皮領域に存在し、それぞれで同時に癌化が生じたというシナリオも想定可能だが、組織型の混在がすべてこのような起源細胞の違いのみで説明可能かは不明である。我々はこの点に注目し、このような混在する症例について、感染HPVタイプやHPVのヒトゲノムへの組み込み(インテグレーション)部位の解析、さらに全エクソン解析を基にしたクローン解析をおこなうことで発癌過程や分化調整を解明し、子宮頸癌の起源細胞を同定できると考えた。 HPV18型陽性子宮頸癌のうち、同一症例内に複数の組織型が存在する混合癌症例を対象にヒトゲノム解析に基づくクローン解析を行った結果、同一症例内の各組織型は共通の細胞起源を有することを解明した。また、微量RNA seq解析でヒト遺伝子発現とともにHPV遺伝子発現を評価した。その結果、HPV18型遺伝子発現パターンは同一症例内では組織型によらず共通のパターンを示し、さらにヒト・ウイルスキメラRNA解析では、同一症例内では組織型によらずHPVインテグレーションサイトは一塩基レベルで共通していることがわかった。これらの結果より、HPV18型は、混合癌においては、組織型によらず共通の細胞起源を有すること、またHPVインテグレーションは組織型の分化前の共通起源細胞において既に起こっていることが分かった。さらに、組織型ごとのヒト遺伝子解析の結果、HPV18型陽性混合癌では、幹細胞の性質を有する細胞を維持していることが分かった。このことより、HPV18型陽性子宮頸癌では、幹細胞における発癌と、発癌後の組織型分化の仮説が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題のうちSCJオルガノイドの最適化・分化誘導に関しては検体の準備などの関係で予定ほどの進捗は達成できなかったが、混合癌の解析に関しては腺癌と扁平上皮癌の混合癌に関してマイクロダイセクションによる切り出し、クローン解析およびRNAseq解析まで実施することができ、おおむね順調に進展した。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度には、SCJオルガノイドを用いた検討を行う予定である。まず、SCJオルガノイドの最適化と分化調整機構の解析を行う。手術により摘出した子宮のSCJ部をサンプリングし、SCJオルガノイドを作成する。この際に、サプリメントを調整(Notch阻害剤やp38阻害剤などの追加)することで、腺系分化や扁平上皮系の分化調整方法を確立する。また、樹立したSCJオルガノイドについて正常子宮頸部の各部位を対象にマイクロダイセクションRNA-sequence解析を行った結果と比較することで、SCJオルガノイドの発現プロファイルを明らかにする。 次に、SCJオルガノイド用いたHPV18型初期プロモーター活性化リアルタイム評価モデルを構築する。HPV18型の初期プロモーター(LCR)活性をGFP発現でモニタリングできるLentivirusベクターを構築する。SCJオルガノイドにこのレンチウイルスベクターを導入することでSCJオルガノイド内のLCR活性を有する細胞の同定を行う。また、SCJオルガノイドの中でLCR活性を有する細胞を単離し、単一細胞解析を行うことでその特徴解析を行う。また、SCJオルガノイドの中でLCR活性に必要な遺伝子を同定できたら、その遺伝子のHPV18型複製に及ぼす影響をsiRNAによるノックダウンアッセイを用いて検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
SCJオルガノイドに関する解析は次年度に実施する計画に変更となったため次年度使用額が生じた。次年度予算は主にSCJオルガノイドの作成・分化誘導、またLentivirusベクター作成などに使用する予定である。
|