本研究では子宮に存在する子宮内液が受精に適した精子を選抜するメカニズムの解明を目的としている。子宮内液には補体の中核因子である補体C3が多量に含まれることを明らかにしており、この補体C3をノックアウトしたマウスの子宮内液では殺精子作用が抑制されることも明らかになっている。これらのことから、精子選抜メカニズムにおいて補体C3が重要であることは明白であるが、その活性化機序は明らかになっていない。本年度は子宮内液と同じく補体を多く含む血清においても殺精子作用が見られるかを確認した。マウス血清を含む培地中で精子を培養した後、核染色剤であるヘキスト、PIを用いた二重染色を行い、生死の判別を行った。その結果、マウス血清においても同様に殺精子作用が確認された。この作用が補体によるものであることを確認するため、補体を不活性化させる非働化処理を行い同様の実験を行った。その結果、非働化血清においても殺精子作用が確認され、血清の持つ殺精子作用は補体によるものではない可能性が示唆された。 本研究期間全体として、子宮内液において補体C3は精子表面で活性化すること、時間経過とともに分解されていくことを明らかにした。また、その活性化は精子の持つ何らかの因子が働いている可能性を示した。一方で、子宮内液と同様に多量に補体C3を含む血清で見られた殺精子作用は補体によるものではないことを明らかにした。このことから、補体による殺精子作用は子宮内液独自のシステムであることが示唆された。
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