内臓脂肪と内臓脂肪が産生するアディポサイトカインが、好酸球性副鼻腔炎における難治性鼻茸の形成に与える影響を明らかにするために、当科で手術を行った好酸球性副鼻腔炎患者と非好酸球性副鼻腔炎患者の内臓脂肪面積(Visceral Fat Area : VFA)を、Panasonic 内臓脂肪計 EW-FA90を用いて腹部生体インピーダンス法で測定した。その結果、好酸球性副鼻腔炎患者では非好酸球性副鼻腔炎患者と比較しVFAが有意に大きかった。VFAは好酸球性副鼻腔炎が重症であるほど大きい傾向を認めたが、末梢血中好酸球、組織中好酸球数とは有意な相関を認めなかった。続いて、アディポサイトカインであるAdiponectin、PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)の末梢血中の濃度をELISAで測定しVFAとの関連を調べた。その結果、Adiponectinは有意な負の相関を、PAI-1は有意な正の相関を認めた。さらに、好酸球性副鼻腔炎患者と非好酸球性副鼻腔炎患者で比較するとAdiponectinは両者に差を認めなかったが、PAI-1は好酸球性副鼻腔炎で有意に高かった。凝固系と線溶系の不均衡が鼻粘膜における鼻茸形成に関与することが報告されているので、線溶系抑制因子であるPAI-1が難治性鼻茸形成に関与している可能性が考えられた。内臓脂肪から放出されたPAI-1は末梢血中に拡散し、各組織に存在する受容体と結合することで様々な働きをする。PAI-1の受容体の一つであるLRP-1が鼻粘膜上皮に存在することをreal-time PCRと免疫組織化学で確認した。鼻粘膜線維芽細胞から放出されるtenascin-Cも線溶系抑制因子であるため、組織中tenascin-CをELISAで測定したが、好酸球性副鼻腔炎患者と非好酸球性副鼻腔炎患者で有意差は認めなかった。
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