温度刺激検査時に眼振が誘発される機序について、当初は内リンパの自然対流、その後に内リンパの熱膨張、熱浮力の影響、神経への直接刺激などが提唱されてきたが、いまだ定まった見解はなく、検査時の内リンパの動態は正確にはわかっていない。 半規管は骨に覆われているため、内リンパやクプラを直に観察することは困難である。そこで予備実験として正常のヒト内耳3次元モデルを用いた流体解析を行ったところ、内リンパの自然対流の発生は限局的で、クプラの偏位への寄与は小さい可能性が示唆された。このようにソフトウェアによる解析は半規管内の動態を予測する上で非常に有用である。 本研究の目的は温度眼振検査時における内リンパの自然対流、熱の拡散を考慮して内リンパにどのような流動・圧変化が発生するのかを、流体力学的解析を行うことで明らかにすることである。次いで重力、半規管の構造、内リンパの粘性、クプラの面積を変えた場合に、内リンパの動態がどう変化するかを解析することである。研究成果により、温度刺激検査の所見に対してより詳細な検討が可能となり、病態のさらなる理解や治療法の開発につながることが期待される。 当該年度においては、解析に用いるシミュレーターの選定に時間を要したため、研究の本格的な着手には至っていない。一方で学術講演会へ参加し、最新の平衡学領域に対する知見を深めることができた。
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