研究課題/領域番号 |
22K16931
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安井 徹郎 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (60803468)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 聴力再生 / 再生医療 / 神経再生 / 微小環境制御 / ミクログリア |
研究実績の概要 |
本研究では、神経幹細胞を制御する周囲微小環境の構成因子であるミクログリアに着目し、蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の活性化機構の解明と、薬剤性内耳障害を必要としない新生ニューロンによる神経回路機能の再獲得により、安全性に優れた聴力改善治療の創造を目指している。 成体マウス螺旋神経節での神経細胞・神経幹細胞の周囲微小環境としてはシュワン細胞・ミクログリアが知られており、まず我々はミクログリアの活性化を確認するため、野生型マウスに神経障害性薬剤(ウアバイン)を投与したところ、神経細胞死と並行しIba1陽性ミクログリアの増殖が神経障害後より確認され、特にミクログリアの活性化を示すCD68陽性細胞が神経障害性薬剤(ウアバイン)投与後5日目をピークとして確認された。 このことから、ミクログリアによる成体マウスでの薬剤障害により惹起されたミクログリアとラセン神経節神経幹/前駆細胞(SG-NPC)の増殖制御の関連を検討するために、ミク ログリアの活性化を制御するToll様受容体(TLR)9遺伝子に着目し、成体TLR9欠損マウスに神経障害性薬剤(ウアバイン)を投与し、ミク ログリアの活性化および増殖、さらにSG-NPCの増殖を野生型マウスと比較し評価したところ、野生型マウスと比して成体TLR9欠損マウスでは蝸牛ラセン神経節神経細胞の細胞死が抑制され、蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の増殖が抑制されていることがわかった。 このことから、蝸牛ラセン神経節神経細胞の細胞死および蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の活性化に活性化ミクログリアが重要なキーファクターであることを示唆しており、蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の静止状態からの活性化機構への解明および、先行研究よりも安全性・コストにお いて臨床的に妥当な治療法の創造という目標について大きな手がかりとなるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では当初の仮設においてはミクログリアの活性化を抑制することで蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の増殖制御の変化を観察することを第一としていたが、蝸牛ラセン神経節神経細胞の細胞死も抑制されたことからミクログリアの活性変化による神経細胞保護・神経細胞死促進の制御機構も検討する課題が増えたため、やや遅れているものと判断する。 ポジティブデータは出ており、完全に遅れているものとは判断しない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の静止状態からの活性化機構への解明および、先行研究よりも安全性・コストにお いて臨床的に妥当な治療法の創造であり、今後はミクログリアの活性化制御および蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の活性化制御の両面を検討していく方針とする。 具体的にはTLR9欠損マウスを用いずに、野生型マウスにコロニー刺激因子 1 受容体(CSF1R)阻害剤投与により内在性MGを除去することにより、神経障害性薬剤(ウアバイン)を投与した場合でも遺伝子操作マウスと同様に神経保護が可能かどうかを検証する。 さらに、活性化型ミクログリアによる神経細胞死が蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の活性化を引き起こす可能性を検討するため、神経細胞死において核外に漏出される染色体High-Mobility Group Boxタンパク質に着目し、組換HMGB1投与により蝸牛ラセン神経節内在性神経幹細胞の増殖が惹起されるかを検証する。 上記2つの検証を組み合わせ、最終的には聴力維持に必要とされる本来のSGN数の30%以上が保持あるいは補充されること、および聴性脳幹反応検査で非治療群より少なくとも20dBの聴覚機能の回復を目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子改変マウスがすでに飼育済みであったため、予定されたマウス購入より予算圧縮がなされた。また、コロナにより多くの学会が遠隔参加であったため、旅費も圧縮されました。
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