研究課題
本研究では、マウス網膜の器官培養法を新たに開発し、発生期もしくは病的血管新生でみられる細胞動態を評価するため観察系の構築を目指す。本年度は、器官培養法の開発を試みた。予備研究で課題であった網膜の変形は、type1コラーゲンに網膜を埋め込むことで形状保持を可能とした。網膜血管の発生を再現できる網膜器官培養に適した培地ならびにサプリメントを検討した。生後4日の新生仔マウス網膜を種々の培地・サプリメントを用いて40%酸素濃度下に24時間培養した後、ホールマウント免疫染色により培養網膜の血管形態ならびに内皮数を生後5日マウス網膜のそれと比較した。神経系細胞に適したB27・N2サプリメントを添加した培地では血管伸長、血管径、血管分岐数のいずれも減少し、内皮細胞は数だけでなく配向にも凝集様の変化がみられた。一方、血管内皮細胞に適したVEGFとFGFを添加した培地では、血管伸長、血管径、分岐数は神経系の培地よりも有意に増加したが生後5日マウスと同等にはならなかった。このとき、抗a-SMA、抗NG2抗体による免疫染色においてペリサイトによる内皮細胞の被覆が障害されていたことから、さらにPDGF-BBを添加して培養したところ、生後5日マウス網膜の血管形態と同等となった。VEGF, FGF, PDGF-BBの3つのサイトカインと化合物を添加した培地を用いることで生体に類似した発生期の血管新生をex vivoで誘導することができた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画どおり、網膜血管新生の観察に適した器官培養法の開発を進めた。
次年度は確立した網膜器官培養法を用いて観察系を構築する。1)内皮細胞の同定:内皮細胞の細胞質に特異的にGFPを過剰発現するマウス網膜において、 生細胞核をReadyProbe 試薬を用いてDAPIもしくはCy5フィルターで検出可能な可視外の波長で蛍光標識する。細胞の重なりによって内皮細胞の特定が難しい場合には、Cre/loxPシステムを利用した組織特異的に細胞核を標識可能なレポーターマウス (R26R-H2B-EGFPマウス)を理研バイオリソースセンターから入手したのち、内皮細胞特異的にCreリコンビナーゼを発 現するマウスと交配して内皮細胞核にGFPを発現するマウス網膜を作成する。2)培養網膜の観察法および評価系の確立:ライトシート顕微鏡を用いて1時間から数時間間 隔で数日間のタイムラプス撮影で培養網膜を観察する。平坦化した網膜は二光子顕微鏡を用 いて観察する。得られた画像を用いて個々の内皮細胞核をImageJプラグインのMTrackJで手動追跡し、細胞増殖と運動を解析する。
計画予算より支出が少なかった。次年度、観察系確立にためのデバイスに支出が増えると予想されるので、次年度に使用する予定である。
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