研究代表者らは、代表的な神経栄養因子の一つである脳由来神経栄養因子(BDNF)の受容体であるTrkBに着目し、緑内障モデルにおける神経保護および軸索再生の研究をこれまでに行ってきた。また、TrkBシグナルを常時活性化する分子を独自に開発し、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いた遺伝子治療により、視神経障害モデルおよび正常眼圧緑内障モデルにおいて網膜神経節細胞(RGC)の神経保護および軸索再生を誘導することに成功し、その成果を国際科学雑誌であるmolecular therapyに報告した(2023年3月)。さらに、成熟個体のRGC特異的にTrkBを欠損させると、比較的急速にRGC細胞死が誘導されることを見出した。本研究では、成熟網膜におけるTrkBがRGC樹状突起の維持や細胞体の生存に果たす役割を、特にエネルギー代謝異常に注目して解明することを目指した。その結果、RGC細胞死に先行して、RGC樹状突起の退縮や網膜機能低下、軸索変性を示唆する所見を得た。さらに、RGC subtype別の比較を行ったところ障害耐性が高いことで知られているαRGCが最もTrkB欠損による細胞死を引き起こすことを明らかにした。また、RGC細胞死が誘導されるメカニズムとして、ミトコンドリアの動態に着目し、ミトコンドリアに結合する蛍光タンパクのAAVベクターを活用して、RGC樹状突起内部のミトコンドリア分布を3Dイメージで可視化したところ、RGC細胞死が誘導される前に樹状突起内部のミトコンドリア数が有意に減少することを見出した。
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