研究課題
腱組織は、骨格筋の収縮力を骨へと伝達するための密性結合組織である。そのため、運動器「筋-腱-骨複合体(Muscle-tendon-bone complex)」の中でも身体の運動や機能維持の要となる組織の1つである。しかし腱組織は、細胞/マトリックス比の割合が低い事、血管に乏しく酸素や栄養が行き届かない事から再生能が乏しい組織である。腱の発生研究で特定された分子制御因子は、腱損傷と修復のメカニズムにも関与するが、発生時に必要不可欠なSox9については不明な点が多い。本年度は、腱損傷モデルマウスを作成することで機能再生とSox9の局在や経時的な変化を評価し腱損傷修復時におけるSox9の解明を目的に検索を行った。運動機能の回復を確認するために関心領域をマウス腱付着部として、メスにて損傷を与えた。マウスは、疑似オペであるSham群、損傷後1週群(POW1)、2週群(POW2)、4週群(POW4)の各4ステージを設けた。各ステージで生理学的試験、RT-PCRを行ったのちに、通法通りパラフィン切片を作成し組織学的形態計測、免疫組織化学染色を施し解析を行った。生理学的試験の結果、腱損傷により、運動器の機能がPOW1で低下するが、POW4では機能が回復することが明らかとなった。次に組織学的検索を行った結果、POW1では腱組織の連続性を欠いたが、POW2では腱再生において重要な役割を示す腱外側部分のepitenon領域の形成が認められた。次に、RT-PCRを行った結果、腱再生に重要なα-SMA,POSTNと共にSox9の発現もPOW2で特に有意な増加を示した。この事は、epitenon領域の再生時期とも一致した。さらに免疫組織学的染色の結果、POW2においてepitenon領域から流れ込むようにSox9が損傷部位に集積することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年に計画していた研究計画は、実績の概要に記載の通り研究結果が出て、論文としての報告が出来たため、「おおむね順調に進展している」とした。
本年度の研究成果より、「筋‐腱-骨」複合器の総合的な形成過程を理解する必要があると考え、同部の損傷による形態的な変化や再生過程をさらに違う視点から明らかにすることを計画している。方法論としては本年度のような機械的損傷ではなく、対象となる筋付着部(MTJ)にコラゲナーゼ注射することによって、その後の再生の過程を検索する。MTJの形態を観察するためにトルイジンブルー染色を行う。また、Laminin(筋線維の基底膜のマーカー)、Collagen22a1(MTJのマーカー)の局在を観察するために免疫組織化学染色を施す。得られた画像を用いて、形態学的観察および各種解析を行い、他の結果とともに解析を進める。マウスに関する実験はすべて、東京歯科大学の実験動物委員会によって承認された(承認番号220105)。統計学的検定はすべてR言語を用いて実施する。複数のグループは、一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を使用して比較し、p < 0.05を統計的に有意とする。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 24(14) ページ: 11305
10.3390/ijms241411305.