象牙質は、象牙芽細胞により形成される。他方で、骨芽細胞は骨を形成する細胞である。骨芽細胞の分化には、エネルギー代謝経路の一つである解糖系が重要な役割を果たすことが報告されている。骨芽細胞と象牙芽細胞は、共にⅠ型コラーゲンを産生する硬組織形成細胞であるが、修復象牙質形成を担う象牙芽細胞の分化における解糖系の重要性は不明である。そこで本研究では、マウスの歯に刺激を加え、この時に誘導される修復象牙質形成における解糖系の役割を解析した。結果は以下の通りである。 ①外傷後の組織における解糖系酵素PDK1、HK2の発現を確認したところ、修復象牙質を形成する象牙芽細胞でこれらの解糖系酵素が発現しており、解糖系酵素を誘導する因子であるHIF-1αの発現部位と同様であることを確認した。 ②修復象牙質形成における解糖系の役割を解析するため、解糖系酵素HK2の阻害薬である2-デオキシ-D-グルコースを投与し修復象牙質形成を誘導したところ、象牙芽細胞の減少に伴う修復象牙質の形成抑制が起こることを確認した。 ③解糖系から続くエネルギー代謝経路であるヘキソサミン生合成経路(HBP)を介して生合成される UDP-GlcNAcを利用して行われる、細胞内タンパク質のN-アセチルグルコサミン修飾(O-GlcNAcylation)が修復象牙質形成時の象牙芽細胞で増加することを確認した。そして、O-GlcNAcylationを増加させるN-アセチルグルコサミンを外部から投与して修復象牙質を誘導したところ、修復象牙質の形成量が増加することが分かった。 ①~③の結果から、解糖系およびこれに続くエネルギー代謝経路が修復象牙質形成において重要な働きを示すことが示唆された。
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