研究実績の概要 |
リポカリン2(Lipocalin2: LCN2)は免疫細胞や上皮細胞から産生される分泌型糖蛋白質である。歯周病や糖尿病にてその発現レベルが上昇することが知られている。そのためLCN2は歯周組織に対してさまざまな生理機能を有すると考えられ, その作用機構を明らかとするため, 研究を進めている。 LCN2の歯周組織を構成する細胞への影響を検討するために, リポカリンのレセプターである24p3Rの発現をウエスタンブロット法にて検討を行った。 好中球様細胞(分化HL-60), ヒト歯肉繊維芽細胞(CRL-2014), ヒト歯根膜繊維芽細胞(HPDLF), ヒト口腔上皮細胞(TR146)に加え, ヒト静脈内皮細胞(HUVEC)や骨組織細胞であるマウスの骨芽細胞(MC3T3E-1)や骨細胞(MLO-Y4A2)に対する発現についても調べた。その結果, 分化HL-60やCRL-2014, HPDLFでは24p3RのLongまたはShortの発現が認められる結果となった。一方で, TR146, HUVEC, MC3T3E-1, MLO-Y4A2については, レセプター発現が認められなかった。 Ricombinant LCN2をそれぞれの細胞に作用させたところ, MLO-Y4A2についてはIL-6の発現を低下させる傾向を示し, MLO細胞に対してはスクレロスチンの発現を減少させる傾向にあった。また分化HL-60においては, LCN2は P.gingiavlis LPS刺激により増加したIL-8のタンパク発現に影響をもたらさなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
歯周組織に関連した細胞(上皮細胞,繊維芽細胞,歯根膜細胞,血管内皮細胞,骨細胞,骨芽細胞)における24p3Rの発現を調べることができた。その結果を基に, 24p3Rのレセプター発現をLongおよびShort両方発現しているHL-60に重点を置き研究を進めることもできた。しかしながら, 研究当初, 目的としていたLCN2の各種細胞に及ぼす影響について著明な変化や現象を得ることができなかった。そのため予想より進行状況が遅れる結果となった。 しかし, 本年度行った研究は計画している研究遂行に欠かすことのできない, 必要な過程であり, 研究計画全体としてはその進行に著しい遅延は生じないと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はLCN2の炎症性サイトカイン発現への影響だけではなく, その他の作用に関連する細胞への影響についても調べていく。具体的には細胞の走化性や遊走性や細胞増殖, 細胞付着性への影響などに重点を置き, それに関連する因子や機序を検討する予定である。これらの研究を遂行していく足がかりとして, DNAマイクロアレイを使用を検討し, そこから得られた結果を元に各種ELISAやウエスタンブロット法など用いて, さらに詳しい作用機構を検討していきたいと考えている。またこれらの研究結果を遂行していくで, 学会等でも情報収集を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究当初は歯周組織に関連する複数の細胞が, LCN2のレセプターである24p3Rの発現を有し, LCN2の影響を受けると考えていた。そのためそれぞれの細胞の特徴に対応した, LCN2の影響を調べるための実験物品や器具を予算として計上していた。しかしながら今年度の研究結果から, LCN2の細胞に対する著明な変化を確認できなかったため,予定していた使用器具や機器の使用料金がかからなかったことから, 今回のように差額が生じたと考えられる。 次年度は, 令和5年度分として請求した研究費と合わせて, LCN2の細胞への走化性や遊走性, 細胞増殖, 細胞付着性へ及ぼす影響について研究を進めていく予定としている。
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