骨格筋は筋収縮に伴いマイオカインを放出し、免疫および糖・脂質代謝に影響を及ぼす。加齢性疾患による慢性炎症はサルコペニアの発症に関連し、身体活動レベルの改善は、全身の炎症を抑制する可能性が報告されている。骨格筋のエネルギー代謝を司るミトコンドリア機能を調節する分子であるPPARγおよびUCPは、運動により発現が増強するが、炎症抑制機能も知られている。しかし骨格筋と炎症の関連には未解明の部分が多い。 歯周炎は有病率の高い慢性炎症性疾患であり、多くの全身疾患との関連性が示唆されている。我々はこれまでに日本人女性を対象にPPARγ、UCP2およびUCP3遺伝子多型と歯周炎との有意な関連性を報告してきた。そこで本研究では身体活動が骨格筋のエネルギー代謝調節分子を介して歯周炎を抑制するとの仮説を立て検証した。具体的には総合病院外来患者である成人男女を対象としたコホート研究の一環として、まず重度歯周炎の有無とUCP遺伝子多型の関連性を解析した。年齢、性別、糖尿病およびBMIで調整した多変量解析の結果、やはり重度歯周炎とUCP2およびUCP3遺伝子多型との間に有意な関連性が認められた。UCP1遺伝子多型には関連性が認められなかった。次に代表的な身体活動レベルとして歩数計で計測した1日平均歩数との関連性を解析した結果、歩数が少ないことと重度歯周炎の間に有意な関連性が認められた。UCP遺伝子型は歩数と重度歯周炎の関連性に対して有意な影響を示さなかった。本研究の対象者数は107名であったため、歩数、遺伝子多型、重度歯周炎の3変量の解析には検出力が充分でなかった可能性がある。本研究の結果は歩数およびUCP遺伝子多型のいずれも重度歯周炎に抑制的な効果を及ぼすことを示唆しており、今後さらなる大規模関連解析研究に加え、背景となる生物学的メカニズムの解析が必要である。
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