歯周病と糖尿病は互いの病状に悪影響を及ぼすことが知られているが、その因果関係の理解には、両疾患に共通の増悪因子を解明することは必須である。歯周病も糖尿病もその発症と進行に、炎症性サイトカインIL-1βとその産生を制御するNLRP3インフラマソームという自然炎症経路が関与していることが知られている。しかし、NLRP3インフラマソームが両疾患の病態に共通の増悪因子として関与しているかどうかは明らかにされていない。本研究では、歯周病患者の治療前後の歯周組織の炎症状態とインフラマソームプライミング状態、糖尿病の指標(HbA1c)の関連性を解析し、両疾患の増悪因子としてのNLRP3インフラマソームの関与について検討した。 長崎大学病院歯科保存治療室に来院したStageII以上の初診の歯周病患者10名を対象とし、歯周治療を実施した。歯周治療前および治療後1か月・6か月メインテナンス時に末梢血7mLを採血した。末梢血単核球からRNAを抽出し、RT-PCR法でIL-1βやインフラマソーム構成因子であるNLRP3、ASC、caspase-1 mRNAの発現量を測定した。末梢血単核球をNLRP3刺激因子として知られるアデノシン三リン酸で刺激し、IL-1β産生量をELISA法で測定した。これらの測定結果を、末梢血単核球のNLRP3インフラマソームプライミング状態の指標とした。また、歯周ポケット、プロービング時の出血、クリニカルアタッチメントレベル、プラーク付着率などの歯周組織検査を行った。糖尿病の指標として、 HbA1cを測定した。歯周治療後のNLRP3インフラマソームプライミング状態は治療前と比較して低下した。HbA1c値とNLRP3インフラマソームプライミング状態に正の関連が認められた。これらのことから、NLRP3インフラマソームプライミング状態と歯周病および糖尿病との関連が示唆された。
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