近年、フィブリンゲルによって、炎症応答におけるM1マクロ ファージ優位の状態から、組織再生に重要な役割を果たしているとされるM2マクロファージ優位の状態に誘導されることが報告されているが、その詳細なメカニズムは明らかにされていない。また口腔内組織とフィブリンゲルについての報告は皆無である。本研究の最終目標は、フィブリンゲルがM2マクロファージを誘導するメカニズムおよびフィブリンゲルが口腔内周囲組織へ及ぼす影響の解明と、フィブリンゲルを用いた新たな骨組織再生医用材料の開発である。 以下に最終年度に実施した研究成果を示す。①未分化マクロファージをフィブリンゲルと共培養している状態で、LPS刺激すると、フィブリンゲルなしでLPS刺激した群に比べて、優位にM2マクロファージへ分化誘導されることがわかった。このことは急性炎症が生じている組織部位にフィブリンゲルを埋入する事でM2マクロファージ優位、すなわち炎症を抑制する方向へシフトすることができると示唆された。②象牙芽細胞のcell lineとフィブリンゲルを共培養したものをRNA-seqし、ゲルなしで培養したものとの遺伝子群の差を比較した。まだ詳細な遺伝子は解析できていないが、炎症に関わる遺伝子、接着に関わる遺伝子、分化や増殖に関わる遺伝子などで差があり、ゲルの有無で遺伝子群が大きく変化していることは明らかになった。研究期間全体を通した成果としては、フィブリンゲルを用いることでM2マクロファージを誘導することによって骨欠損が回復するということがわかり、フィブリンゲルには炎症急性期の組織状態でも、炎症抑制の状態へ移行させる機能があるということがわかった。またRNA-seqの結果により、フィブリンゲルには口腔周囲組織に炎症や分化などの面で影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
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