令和5年度では、歯髄幹細胞から成る細胞集合体を神経系に分化誘導することで、神経組織様の構造体を作製できるかについて検討した。まず、長さ12 mm、深さ3 mmのグルーブを付与した温度応答性高分子pNIPAAmゲルにヒト第三大臼歯由来の歯髄幹細胞を播種し、2日間培養することで細胞集合体を作製した。次に、この細胞集合体をB-27などを添加した分化誘導培地を用いて最長20日間の培養を行った。これら細胞集合体を構成する細胞について、Real-time PCRを用いて遺伝子発現を検討した結果、Nestinやβ3-tubulinなどの神経細胞マーカーの発現量が神経分化誘導によって増加することが明らかとなった。また、神経分化誘導を施した細胞集合体について、パラフィン包埋した薄切切片を作製し、組織学的検討を行った。ニッスル染色の結果、分化誘導の期間が長くなるにつれて、細胞集合体内にクレシルバイオレット陽性の細胞が増加することが分かった。さらに、神経関連タンパク質に対する免疫蛍光染色を行ったところ、分化誘導を施していない細胞集合体ではニューロフィラメントやグリア線維性酸性タンパク質は検出されなかったが、神経分化誘導によってこれら神経関連タンパク質が集合体内で経時的に増加することが明らかとなった。これらの結果から、歯髄幹細胞から成る細胞集合体に神経分化誘導を施すことで、神経組織様の構造体をin vitroで作製できる可能性が示された。
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