広範囲の顎骨欠損を生じた症例において,補綴装置を支える骨組織を再生する技術の開発が重要な課題となる。iPS細胞から骨オルガノイドを作製し再生治療に用いる技術の確立が期待されているが、オルガノイド作製過程でiPS細胞に与える機械的刺激などの培養条件をさらに検討し、生体に近いオルガノイドを作製する必要がある。サーカディアンリズムは、時計遺伝子群がフィードバックループを形成することによって形成される生体リズムである。これまでに、未分化iPS細胞から分化誘導を行う過程で、時計遺伝子の発現が一定のリズムを形成することが報告されている。申請者らは、機械的刺激によって細胞内の時計遺伝子の発現パターンが変化することを明らかにしており、オルガノイド形成において機械的刺激が時計遺伝子の発現に及ぼす影響に着目した。本研究の目的は、機械的刺激によって骨芽細胞分化誘導過程のiPS細胞内の時計遺伝子発現リズムが調整され、骨オルガノイド形成に及ぼす影響を明らかにすることである。 RNAシークエンス解析を用いて、接着と浮遊培養間の発現比較解析を行ったところ、浮遊培養ではTEAD4が有意に発現し、Hippo-YAP経路の活性化が確認された。YAP-TEAD相互作用阻害剤(verteporfin)を浮遊培養中のiPS細胞胚様体に添加すると、減弱していた概日リズムが回復し、骨形成マーカー遺伝子の発現が有意に増強された。 これらの結果は、浮遊培養が、TEAD4を介したYAP/TAZシグナル伝達経路の活性化を通じて、iPS細胞胚様体の概日リズムと骨形成分化を減弱させることを示唆している。本研究は、骨分化の初期段階におけるiPS細胞胚様体の概日リズムを維持するための接着条件の重要性を示し、iPSCを用いた骨オルガノイド作製を最適化するために重要な結果となった。
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