研究課題/領域番号 |
22K17105
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡辺 隼 東北大学, 大学病院, 助教 (30822241)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メカニカルストレス / レドックスバランス / 骨再生 |
研究実績の概要 |
インプラント治療には十分な顎骨量が必要なため適応を拡大する前処置として、広範で大規模な顎堤吸収や歯槽骨欠損を再建する骨造成術が臨床的に求められている。しかしながら、既存の骨造成術の効果は未だ十分ではなく、新規骨再生技術の開発に期待が寄せられている。顎骨を始めとする口腔組織は、咀嚼を中心とする機械的刺激が常にかかる組織であり、骨再生技術開発の観点からメカニカルストレスを考慮することは必要不可欠である。一方、骨組織において、メカニカルストレスにより生じるレドックスバランスの変化を起点としてカルシウムイオンの細胞内流入が惹起されることが示唆されている。レドックスバランスとは生体内の酸化還元状態を意味し、生体内で合成される酸化・還元性物質により、細胞増殖、抗アポトーシスに関与することが明らかにされており、生体機能を制御する新たな視点として注目されている。以上を背景に、本研究の目的は、メカニカルストレス負荷条件下における細胞内レドックス制御を応用した効率的な骨再生条件を検討し、新たな顎骨再生技術の基盤を確立することである。 初年度は、まず骨芽細胞におけるレッドクス状態の変化が及ぼす影響を検討した。マウスiPS細胞由来骨芽細胞様細胞において、レドックス制御群において石灰化基質量を増加させることが認められた。また、KEGG Enrichment解析において、レドックス制御群において、Calcium signaling pathway, Cell adhesion molecules等の関連遺伝子発現が増加していることが示唆された。次に、圧縮培養器でマウス骨細胞様細胞株を培養したところ、メカニカルストレス条件下において、レドックス関連遺伝子発現の上昇を認めた。本研究結果は、細胞内のレドックス状態と骨再生能あるいはレドックス状態とメカニカルストレスが関連する可能性を示唆する知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた細胞内レドックス制御を可能とする化合物の選定および濃度、作用時間等の最適化を行い、いくつかの候補条件が得られた。また、骨芽細胞におけるレドックスバランスと石灰化基質の産生の関連性を検討できた。今後は、次年度予定しているメカニカルストレス負荷下におけるレドックス状態の評価を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、骨芽細胞および骨細胞のメカニカルストレス負荷下における細胞内レドックス状態の評価および、 骨欠損モデル動物の骨再生におけるレドックス制御の機能の検討を下記の方法で行う。 1. マウスiPS細胞由来骨芽細胞様細胞)およびマウス骨細胞様細胞株を用いて、間欠的圧縮培養器で咬合力を模倣した圧縮刺激を付加する。各刺激段階におけるレドックス応答性分子の発現および細胞内レドックスバランスを解析する。レドックスシグナル制御分子であるNrf2、GSR、Nqo1等の発現をReal-time RT-PCR法およびWestern blotting法で評価する。レドックスバランスは活性酸素種量の測定および、レドックス代謝経路に関連する分子であるグルタチオン、シスチン等の解析を行う。 2. 「ラット顎骨骨欠損モデル」による骨形成評価法により、ラットの下顎臼歯の抜歯後に骨欠損を作製し、レドックス制御性化合物を含むスキャフォールドを骨欠損部に埋入する。欠損部へのメカニカルストレスは与える餌の性状・剛性を変えることで付加する。埋入4、8、12週間後に頭蓋骨を摘出する。骨形成状態および骨密度は、マイクロCTを用いて定量的に評価する。さらに、骨再生について組織学的評価および免疫組織化学染色解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地参加を計画していた国際学会が新型コロナウイルス感染症対策のためオンライン学会となったため、旅費の使用額に変更があったことと、世界情勢の影響により当初予定していた試薬が購入できなかったため、次年度使用額が生じた。 生じた使用額は、令和5年度の使用計画に組み込み、メタボローム解析の受託費用及び、PCR関連試薬の物品費として使用する予定である。
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