咀嚼機能を改善する治療法として、歯科インプラントを用いた補綴歯科治療が行われている。インプラント治療には、十分な顎骨量が必要なため、適応を拡大する前処置として、広範で大規模な顎堤吸収や歯槽骨欠損を再建する骨造成術が臨床的に求められている。しかしながら、既存の骨造成術の効果は未だ十分ではなく、新規骨再生技術の開発に期待が寄せられている。顎骨を始めとする口腔組織は、炎症やメカニカルストレスにより発生した酸化ストレス(レドックスバランスの変化)が発生することが示唆されている。レドックスバランスとは生体内の酸化還元状態を意味し、生体内で合成される酸化性物質あるいは還元性物質により、細胞増殖、細胞死、細胞分化に関与することが明らかにされており、生体機能を制御する新たな視点として注目されている。以上を背景に、本研究の目的は、細胞内レドックス制御を応用した効率的な骨再生条件を検討し、新たな顎骨再生技術の基盤を確立することである。 本研究の結果、マウスiPS細胞由来の骨芽細胞様細胞において、抗酸化作用を示すアミノ酸により細胞内の活性酸素種を抑制でき、石灰化基質の沈着が増加した。また、レドックス制御したマウスiPS細胞由来骨芽細胞様細胞群は非制御群と比較し、ミトコンドリア膜電位の低下の抑制、ミトコンドリアスーパーオキサイドの増加の抑制およびミトコンドリア内鉄(Ⅱ)イオンの集積の抑制が観察された。本研究成果は、ミトコンドリアの状態と骨芽細胞分化の関係を示す知見であり、今後骨再生技術の基礎的知見となることが期待される。
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