令和4年度は社会的敗北ストレス負荷によって生じる口腔顔面領域の機械刺激疼痛閾値の変化には性差がある可能性を見出したとともに、ストレス負荷によって下行疼痛抑制経路の要衝である中脳水道周囲灰白質におけるグリア細胞および神経細胞の活性状態に変化が生じていることが示唆されるデータを得ることが出来た。 以上を踏まえて令和5年度は心理社会的ストレスが疼痛制御機構に及ぼす変調解明のために①ビデオ行動解析を用いたうつ様行動及び疼痛行動の評価の確立、②中脳水道周囲灰白質腹外側部に存在する興奮性細胞、抑制性細胞から微小興奮性シナプス後電流(miniature EPSC; mEPSC)の記録に取り組んだ。 第一のビデオ行動解析を用いたうつ様行動及び疼痛行動の評価の確立については、具体的には強制水泳試験(FST)と、他の個体(本研究では、攻撃ラット)に対する関心度を評価することで不安及びうつ様行動を評価する社会相互性試験(SIT)をうつ様行動の評価として実施した。FSTでは社会的敗北ストレス負荷群のストレス負荷前後で不動時間の延長を認め、さらにSITでは攻撃ラットに対する接触時間が短縮していることが分かった。また、FSTでの不動時間の延長及びSITでの接触時間の短縮が認められたラットでは、口腔顔面領域における機械刺激疼痛閾値の低下が認められた。 第二の中脳水道周囲灰白質腹外側に存在する神経細胞からのmEPSC記録については、ストレスが負荷されていないコントロール群と比較した際に、うつ様行動を示し口腔顔面領域の機械刺激逃避閾値低下を示した社会的敗北ストレス負荷群の興奮性細胞では、mEPSC頻度が減少する一方で、抑制性細胞では振幅が増加する傾向をデータとして得ることが出来た。 本研究では、社会的敗北ストレスによって口腔顔面領域に疼痛が惹起されるとともに、うつ様行動を示すことを明らかにできた。
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