唾液腺では筋上皮細胞は腺房や導管の周囲に存在する。筋上皮細胞が収縮することで口腔内に唾液が分泌される。この筋上皮細胞の収縮を含めた唾液の分泌には副交感神経が大きく関与している。本研究では、支配神経にあたる副交感神経が発生期の唾液腺において、その効果器にあたる筋上皮細胞の分化に及ぼす作用を検討した。 妊娠マウスの胎仔胚から唾液腺を摘出し、ACh受容体の遺伝子発現を検討した。発生期マウス唾液腺ではChrm1の発現が増加していることを確認した。副交感神経終末から分泌されるAChは不安定な物質であるためアナログであるCChを用いてその作用を評価した。妊娠マウスの胎仔胚から唾液腺を摘出し器官培養を行い、その培地にCChを添加した。この器官培養系で遺伝子発現の変化を検討すると、筋上皮細胞マーカーであるACTA2の発現が有意に増加した。また、タンパク質発現の変化を検討するために蛍光免疫組織染色を行うと、筋上皮細胞のマーカーであるαSMAの発現が有意に増加した。さらにムスカリンM1受容体の拮抗薬であるピレンゼピンを併用すると、CChによるACTA2発現の増加が抑制されたことから、その責任受容体がムスカリンM1受容体であることを確認した。 唾液腺上皮細胞へのCChの作用を検討するために、ラット唾液腺上皮細胞のセルラインであるRSMG-1をCChを添加した培地で培養した。するとACTA2の遺伝子発現が増加した。また細胞内シグナルの変化を検討するためにウエスタンブロットを行うと、ERKとAktのリン酸化の亢進を認めた。さらにERKの阻害薬であるPD98059を併用すると、ACTA2の発現の増加が抑制された。 本研究の結果から発生期マウス唾液腺器官培養系においてCChは唾液腺上皮細胞から筋上皮細胞への分化誘導を促進することが示された。本知見は新たな口腔乾燥症の治療方法の開発に寄与すると考えられる。
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