研究課題/領域番号 |
22K17181
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 知帆 大阪大学, 大学院歯学研究科, 招へい教員 (30835856)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 低ホスファターゼ症 / 象牙芽細胞 |
研究実績の概要 |
低ホスファターゼ症(HPP)は組織非特異的型アルカリフォスファターゼ(Tissue-non-specific alkaline phosphatase: TNSALP)をコードするALPL遺伝子の変異により、骨の低石灰化及び血清アルカリフォスファターゼ値の低下を特徴とする遺伝性疾患である。アルカリフォスファターゼ(Alkaline phosphatase: ALP)の活性低下に伴い骨格系や呼吸器系、神経系、歯などに症状を示す。重症度と発症時期によって6病型に分けられるが、歯牙の異常はすべての病型を通じて高頻度にみられる異常の一つである。乳歯の早期脱落や象牙質形成不全は高頻度に発現し、骨疾患が顕著でない場合には、この歯科的所見が主たる症状となる。 そこで、HPP患者より採取された皮膚線維芽細胞をリプログラミングして作製されたiPS細胞を用いて、神経堤細胞、間葉系幹細胞へと分化をさせ、それぞれ異なるプロトコールを用いて骨芽細胞と象牙芽細胞への分化誘導実験を行った。またゲノム編集技術を応用し、原因遺伝子の変異修復を行うことで、修復前後における分化後の細胞の表現型の変化も検討した。 HPP患者由来iPS細胞から分化誘導した象牙芽細胞では、石灰化能の低下を認めた。また象牙芽細胞に特異的なマーカーであるネスチンと象牙質シアロリンタンパクで発現の低下が認められた。一方で、ゲノム編集技術を用いて、HPPの原因となる遺伝子変異を修復したiPS細胞では、分化誘導した象牙芽細胞において、石灰化能が回復していることが確認され、また、象牙芽細胞の分化マーカーの発現も上昇した。 以上よりHPP患者における象牙質形成不全は、ALPL遺伝子の変異に伴うTNSALPの活性の低下に伴って生じることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
石灰化不全や象牙芽細胞マーカーの低下など、遺伝子背景に矛盾しない表現型を示す象牙芽細胞分化誘導系を早々に確立することができた。また、ゲノム編集技術を応用し、HPPの原因となる遺伝子変異の修復にも成功している。さらに、その遺伝子修復したiPS細胞の象牙芽細胞分化誘導によって、石灰化の回復や、特異的なマーカーの発現の増加を確認していることから、目的としていた、低ホスファターゼ症における象牙質形成不全のモデル作製について、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている象牙芽細胞分化の評価系は、多くが骨芽細胞の分化誘導における評価系と重複するものが多い。その理由としては、象牙芽細胞と骨芽細胞が非常に似た性質をもっており、今までその違いについて積極的に比較することが少なかったからであると考えられる。そこで、本研究の今後のプランとして、象牙芽細胞と骨芽細胞の最も特徴的な違いである、細胞形態に着目した研究を行う予定をしている。具体的には、分化誘導した象牙芽細胞が、その形態的特徴である一方向に極性を持った細胞突起を有することを3次元培養を行うことで確認する。また、HPP患者由来疾患特異的iPS細胞を分化誘導した象牙芽細胞について3次元培養を行い、形態学的な異常がないかを検討し、またそれが変異の修復によって変化が見られるのかという点についても評価していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
iPS細胞の象牙芽細胞分化誘導に関する研究を行うに当たって、その分化誘導の評価方法について再検討する必要が生じ、この検討に予想外の日数を要したため、年度内完了が困難となった。
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