舌は、唾液の保持、味覚の感知、効率的な食物と唾液との混合、食物や授乳における乳首の保持、食物の円滑な移動、鋭敏な感覚による異物の検知など多くの重要な機能を有する重要な器官である。そのため、舌の欠損はQuality of lifeの著しい低下を意味する。一方、舌は、口腔内で最も癌が発生する部位であるため、最も手術で除去される口腔内器官となる。手術による癌摘出後は、体の他部位の移植による再建手術が行われるのが一般的である。しかし、その再建手術は、舌の運動機能の回復にのみ主眼が置かれている。再建した部位に舌乳頭はなく、唾液の保持不足に起因する炎症など様々な問題が引き起こる。そのため再建後のQOLの向上には、舌乳頭の再生が求められるが、舌乳頭の再生研究は活発とは言えない。幹細胞をターゲット器官へと誘導する分子機構は、胎児期にその器官が初めに発生誘導される際の分子経路と同一となる。つまり、器官再生は、発生過程の再現に他ならない。舌乳頭には、葉状乳頭、糸状乳頭、茸状乳頭、有郭乳頭の4種類あるが、それぞれの舌乳頭が、どのような分子メカニズムで発生誘導されているかは、全く明らかにされていない。AAA+ファミリーに属するReptinの上皮細胞特異的欠損マウス(Reptin fl/fl;K14Cre)を作成したところ、Reptin fl/fl;K14Creマウスでは、すべてのタイプの舌乳頭を組織学的観察で確認できなかった。Bmpシグナルや古典的Wntシグナルは、葉状乳頭、遊郭乳頭、茸状乳頭の発生に関与するため、それらのマーカー遺伝子の発現を確認したが、活性が消失していた。正常マウスにおけるReptinの発現を確認したところ、胎生14.5日、15.5日に弱い発現が舌上皮全体に認められた。Reptinは胎生14.5日付近で、すべてのタイプの舌乳頭の発生に重要な役割を果たすと考えられた。
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