歯科用局所麻酔薬であるアドレナリン添加リドカイン製剤を高血圧症患者に投与することは、原則禁忌である。アドレナリンに代わる薬剤として、α2刺激薬である塩酸デクスメデトミジン(DEX)に注目した。高血圧自然発症ラット(SHR/Izmラット)にDEX投与した際の循環動態を心臓カテーテルで測定し、アドレナリンに代わるDEX添加リドカイン製剤として、新たな歯科用局所麻酔薬の開発を目指した。 SHR/Izmラットの対象群であるWKY/Izmラットに、NS、アドレナリン、DEXを投与したところ、DEX群では投与2分後までの血圧と左室収縮末期圧(Pes)の上昇がみられた。一方、SHR/Izmラットでは、NS群と比較してDEX群とアドレナリン群の両者とも投与1分後に血圧、Pesが上昇した。DEX群では左室拡張末期容積(Ved)、1回心拍出量(SV)、心拍数(HR)が低下した。 またSHR/IzmラットとWKY/Izmラットの比較ではNS群でさえも針の刺入に伴い、血圧とPesの上昇がみられた。アドレナリン群ではSHR/Izmラットで血圧、Pes、心室収縮末期エラスタンス(ESPVR)の上昇とVed、1回心仕事量(SW)の低下がみられた。DEX群ではWKY/IzmラットとSHR/Izmラットともに血圧が上昇したが、SHR/IzmラットではHRやSWの低下がみられた。 以上のことから高血圧症患者において、①注射針による刺激は血圧上昇と心機能への負担増加の一因になること、②DEX投与はアドレナリン投与よりも血圧の変動が少なく、HRやSW低下に伴う心筋酸素消費量の軽減の可能性があることが示唆されたため、DEX添加リドカイン製剤は新たな局所麻酔薬としての有用性が高いと考えられた。この研究成果を日本有病者歯科医療学会総会で報告する予定である。
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