研究課題
歯の形態形成は、上皮-間葉相互作用により厳密に制御されていることが知られている。これまでの研究で、歯に特異的に発現するmicroRNAであるmiR875を同定した。さらにmiR875は、歯の発生において、間葉細胞の凝集および上皮の陥入に重要な役割を果たしている可能性を見出した。このように、形態形成における間葉細胞の役割を検討するためのスクリーニングモデルとして、間葉細胞への遺伝子導入技術が必要とされるが、歯胚器官培養法においては間葉細胞への導入は困難であり、遺伝子欠損マウスなどのin vivoモデルに依存している現状がある。そこで本研究では、歯胚器官培養法において、間葉細胞への遺伝子導入法の確立を目指し、研究を開始した。本年度は主に、トランスクリプトーム解析を通して歯の間葉細胞に特異的に発現する遺伝子の選定および歯胚器官培養におけるエレクトロポレーション法の開発を行った。網羅的遺伝子スクリーニングにより、歯の象牙質を形成する細胞である象牙芽細胞へと分化する、前象牙芽細胞に特異的に発現する因子として、GPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)の一つであるLy6 lymphocyte antigen-6 (Ly6)/Plaur domain-containing 1 (Lypd1)を同定した。本遺伝子の歯胚における機能を確認するため、Lypd1 siRNAを歯胚全体に遺伝子導入し、間葉細胞におけるLypd1の抑制効果を認めた。さらに、本因子は細胞膜に存在する脂質ラフトに局在し、BMPシグナル経路を制御することで、象牙芽細胞への分化を制御していることを発見した。以上の結果は、歯胚器官培養法におけるエレクトロポレーション法が有用である可能性を示し、本技術を用いて、簡便なスクリーニングモデルの構築が可能であることを示すものである。
2: おおむね順調に進展している
エレクトロポレーション法を用いた歯胚全体への遺伝子導入技術を確立した。
歯胚全体への遺伝子導入はある程度可能となり、間葉細胞までsiRNAが到達していることが確認できた。さらに次年度は、歯胚を上皮と間葉に分け、間葉細胞にelectroporationを行い、歯胚を再構築することで、間葉細胞への効率的な遺伝子導入法を確立を目指す。さらに、本システムを用いて、これまでに同定した転写因子群とmiR875を遺伝子導入することで、歯の運命決定に関わる遺伝子の同定を図る。
本年度は既存のデータベースによる網羅的解析が可能であり、消耗品試薬の使用を節約できた。本年度は既存のエレクトロポレーションシステムを用いることで、間葉細胞への遺伝子導入技術の確立に成功しており、次年度はスクリーニングによる遺伝子機能解析が可能となるため、翌年度分助成金とともに、機能解析のために試薬物品費に充当する予定である。
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Scientific Reports
巻: 13 ページ: 3354
10.1038/s41598-023-29629-2
Journal of Biological Chemistry
巻: Online ahead of print ページ: 104638~104638
10.1016/j.jbc.2023.104638