研究課題
本研究の目的は、骨細胞を用いて圧迫側の環境(低酸素・低栄養等)を再現し、その際に放出される因子が破骨細胞形成に与える影響、および歯の移動における骨細胞の細胞死とDAMPsが破骨細胞形成に与える影響を解明することである。これまでに(1)FACSを用いたprimary骨細胞の単離、(2)低栄養、低酸素環境下における骨細胞の解析、(3)骨細胞より放出されたDAMPsを含む因子が破骨細胞形成へ与える影響の解析、(4)矯正学的歯の移動時の骨細胞細胞死の破骨細胞形成への影響の解析を行った。2% O2環境下で培養された骨細胞のRNAシークエンス解析およびreal-time PCRにより、Lipocalin 2 (LCN2)をコードするLCN2遺伝子発現が増加することを見出した。破骨細胞前駆細胞にRANKLの存在下でLCN2を作用させたところ、破骨細胞形成に変化が見られなかった。しかし、LCN2を骨細胞に作用させてreal-time PCRを行うと、RANKLの遺伝子発現が増加した。また、骨細胞を無血清培地で培養すると、血清が含まれている培地で培養した骨細胞と比較して細胞突起の長さに変化が見られた。さらに、細胞死させた骨細胞のconditioned mediumで破骨細胞前駆細胞を培養すると破骨細胞数が増加した。歯の移動2日から骨細胞の細胞死は観察され、歯の移動6日でempty lacunaeが増加した。TEMの解析により、圧迫側ではアポトーシス様骨細胞やネクローシス様骨細胞が観察されたため、歯の移動に伴い様々な種類の骨細胞の細胞死が存在することが明らかとなった。また、破骨細胞数は歯の移動6日から増加した。以上の結果より、矯正学的歯の移動における低酸素・低栄養環境下の骨細胞が発現する因子や細胞死に伴い放出されるDAMPsは、破骨細胞形成を増強していることが示唆された。
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