ヒトを含む哺乳類の性別は、性染色体で決定されている(男性-XY、女性-XX)。転写因子は両方のX染色体に結合可能なため、そのままでは女性の細胞では、X染色体由来タンバク質が男性の2倍となり、細胞にとって致死的状況となる。しかし、女性の細胞は、ある段階で父親、母親いずれかのX染色体のみを転写することを決定し、それ以降、生涯にわたり、決めたX染色体だけを転写の対象とし、もう一方のX染色体を不活性化の状態にしておくことで、タンパクが2倍になることを回避している。ライオニゼーション(X染色の不活性化)と呼ばれるシステムである。つまり、女性の体には、父性染色体を選択した細胞と、母性染色体を選択した細胞の2種類が存在することになり、これは哺乳類のメスの全ての細胞で惹起されているシステムである。X染色上にはエナメル形成に関与する分子が存在するが、エナメル形成におけるライオニゼーションはこれまで検索されていない。近年、各細胞が、父性、母性のいずれのX染色体を選択したかを、Cre-LoxPシステムによってGfpの発現で確認できるマウス(Hprtマウス)が開発された。本申請は、Hprtマウスを用いて、エナメル形成における、それらライオニゼーションの詳細を把握することを目的とする。上皮でのライオニゼーションを理解するために、HprtマウスとKeratin(K)14Creマウスを交配して、Hprt;K14Creマウスを作成した。同一歯胚の中でもGfp(+)細胞の分布は異なっていた。同一動物の歯胚間でもGfp(+)細胞の分布は異なっていた。別個体の歯胚同士でもGfp(+)細胞の分布は異なっていた。歯胚におけるGfp(+)細胞を、3次元構築したものの、Gfp(+)細胞やGfp(-)細胞のクラスターは認められなかった。一方、皮膚の上皮においては、Gfp(+)細胞のクラスターの形成が認められた。
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