Slitrk1は神経細胞の樹状突起伸長に関わる細胞膜貫通型タンパク質である.Slitrk1は自閉症や運動性および言語性チックを呈するトゥレット症候群の原因遺伝子の1つとして同定され,遺伝子異常によりSlitrk1の機能喪失が起こる.トゥレット症候群患者は骨形成の遅延や骨折が多いと報告されている.しかしながら,トゥレット症候群患者の骨も,骨代謝におけるSlitrk1の役割も全く解析されていない.本研究ではSlitrk1の骨代謝における役割を検討することを目的とした. マウス前骨芽細胞株MC3T3-E1細胞と初代培養頭蓋骨由来骨芽細胞(priOB)でSlitrk1の発現を確認したところ,Slitrk1の発現量は骨芽細胞分化に伴って増加した.次に野生型マウス(WT)とSlitrk1ノックアウトマウス(KO)のpriOBや初代培養骨髄間質細胞(priBMSCs)を分化・誘導し,骨芽細胞分化マーカーの発現量や石灰化度,ALP活性の差を検討した.骨芽細胞分化条件下でKO由来のPriOBやpriBMSCsは,骨芽細胞分化マーカーの発現量や石灰化能、ALP活性が著明に減少した.WTマウスとKOマウスについて,μCTを用いて大腿骨の各種骨パラメータを比較した.またBMP-2含有コラーゲンペレットで誘導した異所性骨を解析した.KOの大腿骨骨量はWTより減少しており,BMP-2で誘導した異所性骨はWTに比べKOで小さかった.マウス線維芽細胞株10T1/2細胞にRunx2とSlitrk1を過剰発現させ,ALPやOsteocalcinの発現を調べた.その結果, Runx2とSlitrk1の共発現でALPとOsteocalcinの発現量が有意に増加した. 以上の結果から,Slitrk1は骨芽細胞の分化過程で発現が上昇し,骨の成熟に必須であることが明らかになった.
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