研究実績の概要 |
今年度は日本国内の複数の自治体を対象とした大規模コホート調査である日本老年学的評価研究の参加者のうち、2010年調査に参加した65歳以上の自立高齢者37,556人を9年間追跡したコホートデータを用いて、口腔状態の悪化(歯の喪失・咀嚼困難・むせ・口腔乾燥)と認知症発症リスク上昇との関連について、認知機能低下による時間依存性交絡による影響を周辺構造モデルを用いて除外して検討を行った。口腔状態の悪化と認知機能低下については、お互いに影響し合う双方向の関連性が報告されており、本研究では2時点で測定を行い分析で考慮することによって、口腔状態悪化→認知機能低下→口腔状態悪化という経時的なフィードバックによるバイアスの影響を周辺構造モデルにより取り除く。感度分析として3時点で測定した口腔状態と認知機能を考慮した分析も行った。 対象者集団における認知症の発症率は100人年あたり2.2であり、ベースライン時点で口腔状態の悪かった者において、認知症の発症率は高かった。周辺構造モデルを用いたコックス回帰分析の結果、歯数が19本以下の者で認知症リスクが1.12倍(95%信頼区間:1.03-1.23)、無歯顎の者で1.20倍(95%信頼区間:1.09-1.32)、咀嚼困難を有する者で1.11倍(95%信頼区間:1.02-1.21)、口腔乾燥を有する者で1.10倍(95%信頼区間:1.01-1.20)有意に高かった。しかし、むせを有する者では有意な関連は認められなかった。
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