研究実績の概要 |
本年度は居住地域の水道水中フッ化物濃度のばらつきを自然実験とした疑似ランダム化比較試験の研究を複数実施した。日本の出生コホートデータに水道統計から得た居住地域の水道水中天然フッ化物濃度の情報を結合し、追跡期間中の転居を考慮するためにCross-Classifiedマルチレベルモデルをもちいて水道水中天然フッ化物濃度とう蝕治療経験の関連を解析した。解析の結果、フッ化物濃度が高い地域ではう蝕治療割合が低かった(0.10 ppm,0.10-0.19 ppm, 0.20-0.29 ppm, >=0.30 ppmの地域でそれぞれ35.0%, 35.4%, 33.4%, 32.3%)。すべての共変量を調整後、水道水中の天然フッ化物濃度が0.1 ppm増加するごとに、う蝕治療の割合が3%低下した。さらに、米国成人の大規模疫学データに居住地域の水道水フッ化物濃度の情報を結合し、水道水フロリデーションへの曝露を自然実験とし残存歯数と循環器疾患の因果関係を分析した。操作変数法をもちいた分析の結果、幼少期の水道水フロリデーションにより成人期の歯の喪失が0.61本減少し、喪失歯が一本増えることで心疾患既往のある確率が1%ポイント増加することが明らかになった。一方、喪失歯と脳卒中の既往は統計的に有意ではないものの、喪失歯が1本増えることで脳卒中既往のある確率が0.2%ポイント増加した。並行して遺伝的リスクスコアをもちいたメンデルランダム化分析による自然実験研究も進めている。さらに、口腔疾患の疾病負担を他の疾患と比較可能にするアルゴリズム開発のため、日本国民を対象としたWeb調査データをもちいて口腔関連QoL得点と効用値(utility score)の関連の分析に着手した。
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