研究課題
近年、ヒト肺がん組織におけるγ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ(GGCT)遺伝子座の増幅、GGCT遺伝子欠損による肺がんモデルマウスの発がん抑制が報告された。本研究は、がん抑制遺伝子RBを活性化しうる新規標的分子であるGGCTに対する阻害剤を探索し、新たな「RB活性化がん予防法」を開発することを目的とする。まず、GGCTの発現が恒常的に高いことが期待できるヒト肺がん細胞10株に対し、既存のGGCT阻害剤であるpro-GAおよびU-83836Eの感受性を調査したところ、H23細胞が高い感受性を示すことを見出した。次に、H23細胞に対しGGCT阻害剤を投与した際のシグナル伝達系の変化をウェスタンブロット法で解析したところ、AMPKリン酸化が亢進することが判明した。このAMPKリン酸化亢進をGGCT阻害剤スクリーニング系の指標にすることを考え、ハイスループットな解析が可能なcell-based ELISA法の予備検討を行った。その結果、U-83836E投与でAMPKリン酸化亢進を確認できたが、pro-GAでは確認できなかった。これは、本解析系が播種細胞数のばらつきや抗体の品質等の実験条件によって影響を受けやすく、かつ、切断されやすい官能基を有するプロドラッグであるpro-GAの化合物としての性質に依るものと考えられた。要約すると、既存のGGCT阻害剤に高い感受性を示す肺がん細胞株H23について、ウェスタンブロット法を用いてシグナル伝達系の変化を解析したところ、GGCT阻害剤投与時にAMPKのリン酸化が亢進することを見出した。このリン酸化亢進をハイスループットスクリーニングに応用するための予備検討を行ったところ、部分的にウェスタンブロット法と異なる結果が得られたため、更なる条件検討が必要であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
既存のGGCT阻害剤 pro-GAおよびU-83836Eに対し高い感受性を示す細胞として肺がん細胞H23を見出し、新規GGCT阻害剤スクリーニングに用いる細胞株を決定することができた。また、GGCT阻害によりAMPKリン酸化が顕著に亢進することを発見し、これらがスクリーニングの指標となる可能性を示した。さらに、AMPKリン酸化亢進を指標とした、ハイスループットな評価系であるcell-based ELISA法を用いたスクリーニング系構築を目指した予備検討を行った。その結果、pro-GA投与時にはAMPKリン酸化亢進を観察できなかったものの、U-83836E投与時には有意なリン酸化亢進を示すことが判明した。したがって、更なる条件検討を要するものの、スクリーニング系構築に対する根本的な方法論は完成している。また、cell-based ELISA法の代替案として、同じくAMPKリン酸化亢進を指標とし、ハイスループットな解析が可能なLumit immunoassay法の予備検討も開始している。以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
AMPKリン酸化亢進を指標としたスクリーニング系の構築を目指し、cell-based ELISA法およびLumit immunoassay法の条件検討を行う。スクリーニング系構築が完了次第、天然化合物ライブラリーを用いた一次スクリーニングを行う。次に、一次スクリーニングで選別された天然化合物を対象に、二次スクリーニングとして、GGCT阻害活性を定量できる特異的な蛍光基質LISA-101を用いた評価試験を行う。二次スクリーニングで選別されたヒット化合物について、CCK-8 assayを用いた細胞増殖試験、フローサイトメトリーを用いた細胞周期評価試験を行う。最後に、肺がん細胞H23を移植した担がんマウスモデルにおいて、ヒット化合物が腫瘍増大抑制効果を発揮するかどうかを検証する。長期投与時の安全性の確認項目としては、マウスの体重減少や皮膚状態の異常、行動異常の有無等を指標とする。
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