研究課題/領域番号 |
22K17355
|
研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
原 崇人 東邦大学, 薬学部, 講師 (90805681)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 血管内皮細胞 / カドミウム / 脱着傷害 / 密着結合 / Claudin-5 / ZO-1 |
研究実績の概要 |
本研究は、培養血管細胞に対してカドミウムを処理することで特異的に生じる、単層構造からの細胞の脱離(脱着傷害)の分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。2022(令和4)年度は、血管内皮細胞間の結合様式の中でも最も強力な結合を形成する密着結合にカドミウムが及ぼす影響を解析した。 まず、血管内皮細胞において発現が認められる密着結合関連分子を探索したところ、膜貫通分子のclaudin-5、12、occuludinと、これらの裏打ち分子であるZO-1、2、3のmRNAおよびタンパク質発現が認められた。次に、これらの分子に対するカドミウムの影響を検討したところ、claudin-5およびZO-1のmRNAとタンパク質がカドミウムの濃度依存的に発現抑制されることが明らかとなった。次に、カドミウムと同じく毒性重金属として知られる亜ヒ酸および生体必須微量元素であるマンガンと亜鉛を用いて同様の解析を行い、本現象の特異性を検討した。亜ヒ酸処理下ではclaudin-5のみ濃度依存的に発現が低下し、マンガンおよび亜鉛の処理下では濃度依存的にZO-2およびZO-3の発現が抑制された。検討した4種類の重金属は、血管内皮細胞の密着結合構成分子の発現に対する影響がそれぞれ異なり、カドミウムだけが細胞間結合分子であるclaudin-5と、裏打ちタンパク質ZO-1の両方を発現抑制させた。 今年度得られた結果は、本研究の背景にある『脱着傷害のカドミウム特異性』を説明しうる成果である。そこで、2023年度以降は、claudin-5およびZO-1に注目し、(1)両分子がカドミウムによる内皮細胞の脱着傷害に対する責任タンパク質であるかの解析、および(2)カドミウムによる両分子の発現抑制シグナルの解析を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022(令和4)年度は実験条件の検討や研究対象とする分子の絞り込みなどに注力し、カドミウム特異的な標的分子を明らかにすることが大きく、次年度以降の予定に含まれている毒性試験に基づく責任分子であるかの判断や、発現抑制に関わるシグナル解析に割くことのできる時間を十分に捻出できたことが大きい。そのため研究計画に沿っておおむね順調に進展しているものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)毒性試験に基づく責任分子であるかの判断 Claudin-5とZO-1の単独あるいは両方の発現を抑制ないし増加させた細胞にカドミウムを処理し、脱着傷害と細胞傷害の程度に差が生じるか乳酸脱水素酵素の逸脱量と形態学的観察に基づく解析を行う。 (2)発現抑制に関わるシグナル解析 当研究室でこれまで明らかにしているカドミウムによって活性化している経路を阻害することで、claudin-5およびZO-1の発現抑制が消失するか解析する。各種阻害剤の前処理下でカドミウムを処理し、定量的RT-PCRならびにウェスタンブロットを実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:戦争をはじめとする国際情勢の不安定化により、購入を予定していた試薬類の価格が高騰し購入ができなかったため。 仕様計画:2023年度配分額と併せて必要な品の購入に充てる。
|