研究課題/領域番号 |
22K17361
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田村 菜穂美 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任講師 (80836164)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 子ども / 思春期 / 抑うつ / 精神神経発達障害 / 出生コホート / 発達支援 / 経時データ解析 |
研究実績の概要 |
本研究は日本における子どもの幼少期・学童期の問題行動・発達障害傾向と思春期の抑うつ傾向との関連を縦断的に明らかにすることを目的とする。研究対象者は、出生コホート研究「環境と子どもの健康に関する研究・北海道スタディ」に参加者する子どもとその親に質問票調査を行う。14歳の子どもの抑うつ傾向を目的変数として、出生コホート研究にてそれ以前に収集した子どもの問題行動・発達障害傾向の軌跡との関連を縦断的に一般化線形混合モデルで解析する。思春期の抑うつ傾向とそれ以前の発達障害傾向との関連を検討することにより、青年期に継続する疾病と社会的予後の向上を図る。 本対象集団では、子どもが5歳、6歳、8歳の時点での発達障害および問題行動の傾向に関する情報を質問票調査にて収集済みである。12歳時点の発達障害の傾向を追跡するため、調査対象者の保護者に対して質問票調査を実施する。今年度は12歳質問票を1,030件発送して、686件(回収率67%)回収した。 抑うつ傾向については、14歳の子ども本人とその保護者に対して調査を実施する。子ども本人からは、子どもを対象とした抑うつ傾向のスクリーニングであるPatient Health Questionnaire-9や、世界保健機関が精神的健康の測定指標として推奨する「WHO-5精神的健康状態表」を用いて測定する。また、抑うつ傾向の予防因子となるソーシャルキャピタルも測定する。保護者への質問項目としては、子どもの不安傾向をStrength and Difficulties Questionnaireで測定する。また、子どもの抑うつ傾向の重要なリスク要因となる保護者自身の抑うつ傾向および健康状態についても測定する。2024年3月より質問票を1,141件送付開始し、保護者から359件(回収率32%)、子どもから333件(回収率29%)の回収を得た。今後も回収を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに終了した5歳児、6歳児に対するSDQ、ADHD-RS、SCQの調査に加えて、8歳児に対してADHD-RS、ASSQの調査を完了しつつある。12歳児に対する発達障害傾向は、質問票であるADHD-RS(Attention Deficit Hyperactivity Disorder-Rating Scale)を、4,592件送付し、3,027件の返信を得ている(回収率66%)。今後も継続してデータの蓄積を予定している。また、より幅広い年齢の10~19歳児に対して、SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)およびこれまでに受けた発達支援に関する質問票を5,498件発送し、2,664件の返送を得ている(回収率49%)。 抑うつ傾向については、2023年度に倫理委員会での承認を得て、14歳の子ども本人とその保護者に対して調査を開始した。質問票は郵送で送付し、郵送での返送またはWebからの回答を受け付けられるように準備し、参加しやすさに配慮した。2024年3月より質問票を1,141件送付開始し、保護者から359件(回収率32%)、子どもから333件(回収率29%)の回収を得た。今後も回収を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
12歳児に対する発達障害傾向に関する調査を継続する。12歳調査は2024年度で、コホートの全対象者への質問票送付を終了できる見込みである。収集した発達指標の得点を集計し、その軌跡を示す。加えて、経時的に観察した精神神経発達について、発達支援の影響を一般化線形混合モデルで効果を予測する。精神神経発達指標の得点が基準値を超えた対象者の中で、支援を受けた人と受けなかった人の特徴を比較したところ、問題行動のスコアがカットオフ以上だった子どものうち、発達支援を利用した子どもは男児、妊娠前の母親のBMIが25以上の人の割合が有意に多かった。これらの因子が交絡要因となっていることを考慮しつつ、解析を進める。 14歳の子ども本人とその親を対象とした、抑うつ傾向に関する調査を継続し、データの蓄積を進める。14歳の子どもの抑うつ・不安・双極性障害傾向を目的変数として、子どもの5歳、6歳、8歳、12歳で測定した発達障害傾向(問題行動・ASD・ADHDなど)の軌跡との関連を一般化線形混合モデルで解析する。加えて、5歳、6歳、8歳、12歳の発達障害傾向と14歳の子どもの抑うつ傾向との関連を共分散構造分析で検討する。共変量としては、出生時から収集してきた両親の特徴(出産時年齢、BMI、喫煙・飲酒習慣、最終学歴や世帯年収の社会経済要因、健康状態)および、子どもの特徴(性別、出生順、既往歴や服薬状況など)の情報を用いる。また、国外の研究で抑うつ傾向の予防因子として報告された身体的運動や相談できる相手の存在なども調査し、子どものレジリエンスを高める要因を探る。これらの分析から、発達障害を持つ子どものうつ病のリスク要因となる発達障害的特徴や、発達障害傾向が最も抑うつ傾向へ影響するタイミングを明らかにして、予防対策に貢献することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
12歳時点の発達障害の傾向に関する質問票の送付に関して、2023年度分の質問票発送費用が、他の調査と共同での発送となったため、郵送費と謝金が予定額より少ない執行となった。2023年度には14歳の子どもとその保護者を対象とした、抑うつ傾向に関する調査が本格的に開始したが、発送が3月となったため、質問票の回収や調査協力に対する謝礼は2024年度に支出予定である。設備備品費として計上していたパソコンは、他に利用できる機器があったため支出の必要がなくなった。データの蓄積が進み、統計解析の際には、必要なスペックのパソコンの購入を再検討する。
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